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ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
佐野元春

Epic Sony
28・3H-5091 [LP] (1989.6.1)
32・8H-5091 [CD] (1989.6.1)
27・8H-5099 [CD] (1989.6.1)
ESCB-1326 [CD] (1992.9.1)
MHCL-709 [CD] (2005.12.21)
MHCL-30006 [CD] (2013.2.20)
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MHCL 1325-7 [2CD+DVD] (2008.6.4)

PRODUCER:
佐野元春、Colin Fairley
ENGINEER:
Richard Moakes、John Etchells、
Colin Fairley
ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
陽気にいこうぜ
雨の日のバタフライ
ボリビア −野性的で冴えてる連中
おれは最低
ブルーの見解
ジュジュ
約束の橋
愛のシステム
雪 −あぁ世界は美しい
新しい航海
シティチャイルド
ふたりの理由



6枚目のオリジナル・アルバム。先行発売されたシングル「約束の橋」を収録(一部編集)、また「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」「シティチャイルド」「雪−あぁ世界は美しい」がシングルカットされた。

レコーディングはエルビス・コステロ、ニック・ロウなどを手がけたコリン・フェアリーをプロデューサーに迎えておもにロンドンで行われた。日本から持参した一部の曲を除き、演奏はブリンズリー・シュワルツ、ピート・トーマスなど「その筋」の強者で、恐ろしく歯切れのいいビートをたたき出している。

騒々しいロックンロールからアコースティック・チューン、セカンド・ラインからバラード調のポエトリー・リーディングまで、曲調はバラエティに富み、全体を貫く明示的なテーマ、コンセプトはないが、それでも不思議と散漫な印象は受けない。それは、ファンファーレのように鳴らされるタイトル曲のイントロから、静かなポエトリー・リーディングの「ふたりの理由」まで、前線に立ってそこで何が起こるのか見届けるという佐野の意志、そして自分にはそれができるという自信がみなぎっているからだと思う。言葉を変えれば、佐野はここで、自分のすべきことが、決してレイドバックした「良質な」アルバムを作ることではなく、ロック表現の前衛を自ら切り開き今までだれも鳴らさなかったようなロックを創り出すことだという自信を回復したのだ。それはまさにそのような決意の下に制作した「VISITORS」が必ずしも幸福な迎えられ方をせず、一種のナーバスブレイクダウンに陥った帰国直後から、ハートランドとのコラボレーションで作り上げた前作を経て、本作にたどり着く長い旅の結果であったろう。

歌詞はより象徴的、抽象的になり、アルバムタイトルに顕著に見られるように、日本語のビート感、意味性に正面から切り込むような言葉遣いも多い。歌われるテーマは先にも述べた通りシステム、ドラッグからラブソングなどの個人的な感情までさまざまだが、そこには佐野の身体感覚とでもいったものが一貫しており、どのようなひとこともそこに歌われるべき必然を持って構成されているという気さえする。佐野の言語感覚はここで明らかに新しい段階にまで研ぎ澄まされている。

しかしながら歌詞の内容そのものには意外と逡巡しているものが多い。ライブでも頻繁に演奏され、後にアルバム「No Damage II」に別バージョンが収録された「新しい航海」では、「今までの夢は幻」であり、「悲しげに生きるより眠りたい」と歌われる。この時期の佐野が、音楽的には強い確信を回復しているにもかかわらず、その世界観の面において幾分ペシミスティックな傾向を強めていることをうかがわせる。これは「仲間のひとりは口を閉じて清らかに歩いてる、仲間のひとりは瞳を閉じていつわりを許してる」と歌った「Wild Hearts」から、オープニング曲にまるで自らに言い聞かせるように「ぼくは大人になった」というタイトルをつけた次作ににも連なる、佐野の認識の閉塞を示しているものであると思う。こうしたトライアルを通して佐野は、成長し変化する自分の中で、更新されなければならないものと持ち続けられなければならないもの、変わるべきものと変わるべきでないものを一つずつ確認して行くことになる訳であるが、そのことが明確に示されるためにはアルバム「The Circle」の発表を待たねばならない。

いずれにせよこのアルバムが佐野の代表作の1枚と呼ばれるべきものであることは確かである。コンテンポラリーなロック表現の、ポップというフィールドにおける可能性を提示したという意味で、佐野のキャリアの中でも高く評価されるべきアルバムであるということができよう。

僕がこのアルバムを手にしたのは、就職して間もない頃のことだった。会社の独身寮の部屋で、毎朝、先行発売されたシングル「約束の橋」を聞き、それに尻を叩かれるようにして会社へ出かけた。当時の僕は「陽気にいこうぜ」の「音楽もバラの花も」で佐野の声がひっくり返りそうになるところとか、「ジュジュ」の「悲しませたりしないぜ」の語尾が微妙にビブラートするところとかに、理由もなくロックを感じていた。

好きなのはその「陽気にいこうぜ」「ジュジュ」「愛のシステム」など。「雪−あぁ世界は美しい」や「新しい航海」には特別な思い入れはない。「約束の橋」は先に書いたように僕にとって特別な思い入れのある曲だが、最近ではあえて頻繁に聴きたいとは思わない。この曲は、テレビドラマの主題歌に採用されたことから後にリミックスして再リリースされたが、まあこのアルバムに収録のオリジナルバージョンの方が音が際だっていてかっこいいだろうと思う。あと、「ブルーの見解」は、ルー・リードの影響がうかがえるが、個人的には結構好きな曲である。特に最後の「あぁでもオレは」の「あぁ」がいいと思うのだが。



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