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The Circle

1993.11.10発売
Epic Sony / ESCB-1456

PRODUCER :
坂元達也、佐野元春
ENGINEER :
坂元達也

作詞・作曲・編曲 :
佐野元春
●欲望
●Tomorrow
●Rain Girl
●Weekly News
●君を連れてゆく
●新しいシャツ
●彼女の隣人
●The Circle
●Angel
●君がいなければ

9枚目のオリジナル・アルバム。先にシングルで発売されていた「彼女の隣人」をリミックスして収録、またアルバム収録曲中タイトル曲など5曲をリミックスしたミニアルバムがリリースされたが、このアルバムからの正確な意味でのシングルカットはなかった。

佐野元春と坂元達也の共同プロデュースとなっており、ハモンド及びコーラスにジョージィ・フェイムが参加している。また本作はハートランドが演奏に参加した最後のアルバムとなった。レコーディングは佐野がコンピューターを使ってプリプロダクションを行い、ハートランドのメンバーが個別にスタジオ入りして担当のパートを演奏するという方法で行われた。

タイトル曲「The Circle」で佐野元春は「探していた自由」も「本当の真実」ももうないのだと歌う。そしてそうしたものを「もう僕は探しに行かない」、なぜならそれは「時間の無駄だと気づいた」からなのだと。この歌詞を聴いてショックを受けなかったファンはいなかったと言ってもいいのではないだろうか。「本当の真実」は「スターダスト・キッズ」に現れるラインであり、ライブで演奏される「ハートランドへようこそ」で佐野はいつも「本当に自由でなけりゃ意味がないのさ、そうだろ」と呼びかけていた。こうしたイディオムは「ガラスのジェネレーション」の中の「つまらない大人にはなりたくない」というラインとともに、佐野とファンとの間の重要な約束であったのだ。

しかしそれは次第に佐野自身の手足を縛り始めていたに違いない。佐野は自身のアーティストとしてのエゴと、そのようなリスナーとの関係との間で、自らの表現のあるべき姿を模索し続けてきた。「ぼくは大人になった」とことさらに宣言して見せたのも、自らのボヘミア気質を意図的に葬り去って見せたのも(「ボヘミアン・グレイブヤード」)、そうしたくびきをいかに無理のない形で振り切り、自らの現在に即した表現を手にするかという佐野の葛藤の現れに他ならなかったのだろう。佐野はいよいよ切実に、次に進むこと、表現を更新することを望んでいたし必要としていたのだと思う。

かつて佐野が街の片隅にその場所を確保しようとした十代のイノセンスは、恐るべきスピードで商業主義にからめ取られた。そうした情況を目の当たりにし、またそういう場所で闘い続けざるを得なかった佐野にとって、イノセンスの自己目的化がはらむ危うさ、うさん臭さは自明だったはずである。佐野は、継承されるべきものとそうでないものを明確に峻別するべき時期に来ていた。

佐野がそうした認識を踏まえて本作で提示したのが、アルバムタイトルでもある「イノセンスの円環(サークル)」というテーマであった。イノセンスは失われるものではなく、常に円環を描いて立ち現れるという考え、それはとりもなおさずイノセンスの自己目的化を無効にすることである。どこかにある手つかずのイノセンス、手つかずの真実をあてもなく夢見るのではなく、イノセンスを求める心の動きを自己の内面的な問題として対峙すること、「子供のような純粋さ」に逃避するのではなく、大人としての責任を引き受けながら「純粋さ」の意味を問い続けること、佐野はこうして「イノセントのドグマ」から自己を解放しようとしたのだ。

このアルバムを発表したあと、佐野はツアーを経てハートランドを解散させた。それは、佐野がこのアルバムで歌ったことが決して逆説でも単なるレトリックでもなく、リスナーも正面から向かい合わざるを得ない真摯なものだという証拠である。「The Circle」の最後に歌われる「少しだけやり方を変えてみるのさ」といった表現や、「君を連れてゆく」などの見かけの優しさにかまけて、このアルバムの持つ本質的な意味を矮小化してはならないと思う。

アルバムは全体にファンキーで重厚なサウンド・プロダクションとなっている。歌詞にも遊びやフェイクはほとんど見られず、まさに内面を吐き出すように、ある意味でシリアスな、ある意味で誠実な言葉が連綿と紡ぎ出されて行く。この生真面目さ、シリアスさはアルバム「VISITORS」の系譜に連なるものであり、それだけこのアルバムが佐野にとって切実な作品であったこと、そして佐野自身が真に欲していた新しい地平への避けて通れない通過点だったということを示している。アルバム「VISITORS」と同様、作品としては他のアルバムから突出しているが、極めて重要な作品であることは間違いない。

個人的には「欲望」「Tomorrow」「Rain Girl」「君を連れてゆく」「The Circle」などが気に入っている。「欲望」はアレンジがちょっと大仰なような気もするが、「彼女の奥に隠れている」からの一節や、「何もかもが手に届かない」の部分など、佐野が久しぶりに感情をあらわにして歌っているところが何にも増してリアルで嬉しかった。「The Circle」は、ライブでは歌詞を見ながら歌っていたが、それがまたかっこよかった。ただ僕としてはこのアルバム収録のオリジナル・バージョンより、ミニアルバム収録のリミックスの方が好きだが。



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