logo After THE BARN #10 - From Silverboy to SCRATCH



親愛なるSCRATCHへ

ひと夏をかけて僕たちは何通かの手紙を交換した。明るく暖かい季節はゆっくりと、しかし最後は急ぎ足で僕たちの前を通り過ぎ、僕は新しいジャケットを手に入れた。

SCRATCH、君からの手紙を読んだ。そこには、僕が君に投げかけた問いへの、実に君らしい誠実で精緻な答えが書かれていた。僕はそれを何度も読み返してみた。「クラシックス」が今回のツアーで演奏された意味について、そして佐野元春とその仲間たちがたどり着いた場所について。

一昨日、日本から「THE BARN TOUR」のビデオが届いた。そして、ステージの端に立って客席に歌いかける佐野の変わらない姿を見たとき、僕はそこがまさにロックの前線だと理由もなく感じたのだった。

君にあてた最初の手紙で僕はこんなふうに書いた。

ロック・アーティストにとって、表現の初期衝動を常にピュアなまま聴衆にたたきつけてゆくのは難しいことだろう。長く続ければ続けるほど、ある種の表現は巧みになり豊かになる。しかしその一方でデビューしたての頃のみずみずしい感受性や切りつけるような勢いは失われ、曲作りは惰性に流れ、演奏は伝統芸能のように型にはまったものになりがちだ。多くのアーティストが目の覚めるようなデビュー・アルバムを残しながら、その後見る影もなく凡庸な作品しか発表できなくなるのを、僕たちは何度も目にしてきた。

佐野元春はその難しい問題を、さまざまな試行錯誤を繰り返しながらクリアし続けている数少ないアーティストの一人だ。彼はその表現衝動の本質を常に問い続け、自らの成長と向かい合ってきた。だからこそ僕は、ステージに立つ佐野を見て、そこがまるでロック表現の最前線であるかのようにすら感じたのだろう。

「SOMEDAY」はまさにそのような成長の物語だ。そのような成長を最終的に肯定するための意志の軌跡だ。そのような意味で、この曲は紛れもなく佐野の現在とリンクしている。そしてもちろん、僕たちの現在とも。SCRATCH、君が書いてくれたことはよく分かった。

今、日本ではロックが市民権を得て、ちょっとチャンネルをまわせばいつでもだれかがバンドをバックに歌っているように見える。しかしその実、それがロックでなければならない必然性を感じさせるアーティストはそれほど多くはない。そして、あえてリスクを取りながら、その前線に立ち続けようとするアーティストはさらに少ないと言っていいだろう。

そんな時、僕は佐野元春に望みを託したい。彼の誠実さと強さに信頼していたい。彼の歌に耳を傾けたい。SCRATCH、僕の無責任な手紙につきあってくれてありがとう。佐野は次のステップに向けて少しずつ態勢を整えつつあるようだ。冬に備えてせっせと木の実を蓄えるリスたちのように、僕たちもねぐらに帰って想像力と少しばかりの軍資金を積み立てる時がやってきた。そうだろう?

日本から届いた荷物の中に、猿岩石の「昨日までの君を抱きしめて」があった。「風にずっとずっとずっと祈りを込めて 変わらないものと出会うために歌い続ける」と佐野はそこで書いている。「ふりまわされたってどうってことはないだろう 大切な君だけが知っているなら」とも。君からの次の手紙を気長に待っている。

Silverboy



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