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佐野はこれまでにもいくつかの社会的なプロテスト・ソングを発表してきた。「SHAME−君を汚したのは誰」「99ブルース」「愛のシステム」、そしてまたそれ以外の曲の中でもこの世界に対する違和感の申し立ては繰り返し行われてきた。この曲は確かに一見それらの系譜に属するかのようでもあるし、部分的にはそれらに比べてもより直接的なプロテストだとすら映るかもしれない。

しかしこの曲での佐野の認識はこれまでとは大きく異なっているということを指摘しておきたい。ここでは佐野はもはやだれかを指さして糾弾することもなければ闘いを準備しようとしている訳でもない。佐野はただ、「どうしてかなんて聞かないで。なぜなの?とはきかないで。」と歌い、「せつない、ただせつない」と嘆いてみせるだけなのだ。

しかしこれは決して佐野が世界に対する怒りを放棄したことを示しているのではない。利害が複雑に錯綜し、知らない間に自分も社会の側に組み込まれている現代社会のシステムの中で、もはや一義的な「悪」や「敵」は存在し得ないということを前提に、情況的な問題そのものより、その問題と対峙する自己の問題意識の方に主体的な関心が移りつつあるということなのではないかと僕は思う。誇りをなくした子供たち、悲鳴を上げる母親たち、夢をなくした国、庭を荒らされても何も言えず、本当のことが知らされない、それらはすべて情況や社会の問題ではなく、僕たちの主体性、コミットメントの問題であり、本質的に内面的な問題なのだと佐野は看破したのではないか。

ラスト近く、佐野は「ここはサーカス小屋じゃないんだよママ それはただの気取りさ」と高い声で歌う。それはそんな情況を他人事のようにしか批判できないテレビの前のマスに向かってこそ突きつけられたナイフ・エッジであり、ここに佐野がシャウトよりハイトーンを選んだこのアルバムの必然性が見える。僕はあえてこの曲をこのアルバムでのベストに挙げたい。



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1997 NISHIGAMI, Noriyuki a.k.a. Silverboy
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