BACK TO THE STREET
デビューアルバム。先行して発売されたデビューシングル「アンジェリーナ」及びそのカップリング「さよならベイブ」を収録している。 いわゆるニューミュージックが全盛であった当時のシーンで、サックスを大胆に導入した都会的なサウンドプロダクションや、「アンジェリーナ」に典型的に見られる斬新な日本語のビート感など確実に新しい地平を切り拓き、一部のリスナーや評論家の評価を得たものの、一般的なセールスには結びつかなかった。 全10曲のうち「Do What You Like」を佐野自身が、「夜のスウィンガー」「ビートでジャンプ」「Please Don't Tell Me A Lie」「Back To The Street」の4曲を伊藤銀次が、「アンジェリーナ」他残りの5曲を大村雅朗が編曲している。もともと佐野にはブルース・スプリングスティーンの影響が強くうかがわれるが、伊藤銀次はこのアルバムでの佐野をスプリングスティーンにはしたくなかったと語っており、その言葉通り、銀次の編曲による4曲はいずれも当時のイギリスのニューウェーブ、特にエルビス・コステロなどを意識してビートを強調した仕上がりとなっている。 収録曲のうち以前から歌っていたのは「情けない週末」「Do What You Like」の2曲だけで、他はこのアルバムのために書き下ろしたものだという。また「夜のスウィンガー」は当初4ビートのジャジーなバラードであったとか。この曲はモータウン調にアレンジされたバージョンがビデオ「Visitors Tour '84-'85」で聴ける。 このアルバムでは、佐野独特の、ある意味でバタ臭い語彙を駆使して都市生活者のモダンライフを描写しているが、それが必ずしも現実の風景と完全にマッチしていた訳ではないにもかかわらず、リスナーに一定のリアリティを持って受け入れられたのは、これらの語彙が佐野の内的な原風景から直接に立ち上がってきたからに他ならないと思う。佐野のこうした都市のストーリーテラーとしての本源的な資質は、その後洗練されながら佐野の表現の核をなして行くことになるとともに、佐野の達成の表層を商業的にかすめ取ったあまたのインチキ佐野フォロワーと佐野自身の表現の質を分画する重要な契機であり続けている。 またこのような資質と表裏一体をなしているのが、いわゆる全共闘世代の後に来る新しい世代としての自負、彼らが作り上げたシステムに対する異議申し立てといった佐野のプロテストする者としての側面であり、この作品でも「Please Don't Tell Me A Lie」や「奪われたものは取り返さなければ」などの歌詞にその萌芽がうかがえるが、こうした意識がより明確に、自覚的に展開されるには次のシングル「ガラスのジェネレーション」を待つことになる。 このアルバムで個人的に好きなのは、「夜のスウィンガー」「ビートでジャンプ」「Please Don't Tell Me A Lie」そして「Do What You Like」「アンジェリーナ」といったところだろうか。「情けない週末」は後にアルバム「Slow Songs」にフル・オーケストラ・バージョンで収録するなど佐野自身にとって重要な作品の一つであるとともに、バラードとして代表作に数えられる人気の高い曲でもあるが、この曲の受け入れられ方は、いかにも日本人らしいウェットなバラードびいきという気がしてならない。悪くない曲だが、安易な評価によってスポイルされているように感じる。
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