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Epic Sony
ESCB-1230 [CD] (1991.8.28)

PRODUCER:
佐野元春
MIXER:
坂元達也

作詞・作曲:
佐野元春
●恋する男
●こんな素敵な日には
●情けない週末 <Full Orchestra Version>
●ふたりの理由
●真夜中に清めて
●バルセロナの夜 <Re-Mix Version>
●週末の恋人たち <Re-Mix Version>
●バッドガール <Full Orchestra Version>
●彼女 <Re-Take 1991>
●君を待っている
●雪 −あぁ世界は美しい
●グッドバイからはじめよう



タイトル通りスロー・ソングス、バラードを集めたベスト・アルバム。既発表曲ばかり12曲を収録しているが、一部の曲はこのアルバム収録に当たってリミックス、またはリテイクされた。こうしたリテイク、リミックスの背景について佐野は、一部のマスター・テープに保存状態の問題がありリテイクせざるを得なかったこと、そのためフル・オーケストラをバックに「シナトラのように」歌ってみようと思い立ったことなどを語っている。手を加えられた曲は以下の通りである。

●「情けない週末」 フル・オーケストラでリテイク。
●「バルセロナの夜」 坂元達也によるリミックス。この曲は大村雅朗によるオリジナル・アレンジがあまりにビリー・ジョエルの「Just The Way You Are」そっくりであり、当時佐野元春が異議を唱えたがけっきょくそのままリリースされてしまったという経緯があったらしい。このリミックスではサックスのパートが全面的にカットされ、ビリー・ジョエルの面影はかなり払拭されているものの、他にリテイクされた曲があることを考えれば、この曲こそ佐野自身の手でリテイクされてしかるべきであったのではないかと思う。
●「週末の恋人たち」 坂元達也によるリミックス。オリジナルと比べて大きな変更はない。
●「バッドガール」 フル・オーケストラでリテイク。
●「彼女」 リテイク。ピアノはオリジナルと同じく佐野自身が担当している。

バラードが、ロックン・ロールのスピードに埋没してしまいがちな感情の細かい動きを雄弁に物語るということはあるだろう。しかし、日本人のバラードびいきには、自己の主体性をべったりとした感情の中に解消したいという未成熟かつ無批判な情緒への依存があると思う。それはつまり他人の物語の中へ自分の責任を遺棄するということに他ならない。「情けない週末」が常に高い支持を得ていることは、残念ながら佐野元春ファンの中にそのような思想性が確実に存在することを示唆している。

このコンピレーション・アルバムの選曲に表れた「スロー・ソングス」というコンセプトは、ロックン・ロールと表裏一体をなすものとしての「バラード」概念であるよりは、そのような情緒への「寄りかかり」に近い印象を受ける。そこには耳触りの良さそうなスロー・ソングという以外に全体を貫く軸のようなものが欠けており、バラードっぽい曲なら何でもといったような寄せ集め的な安易さが感じられるし、ポエトリー・リーディングに近い「ふたりの理由」がアルバム全体の流れを妨げている感も否めない。

ロックン・ロールの文脈におけるバラードとは、常にそこにたった一人でいる自分自身を引き受けることからしか始まって行かない。そのような本源的な孤独を背負った上で愛は語られるべきだし、だからこそ「Heart Beat」は僕たちを打つのではないだろうか。もちろんこのアルバムに収録された個々の楽曲がそのような省察を欠いているというのではない。明らかに文脈の異なる「グッドバイからはじめよう」や「バルセロナの夜」、「ふたりの理由」や「バルセロナの夜」を、スロー・ソングスというだけで一くくりにしてしまう安直さが、このコンピレーションを日本人の情緒過多なバラードびいきに迎合したものにしてしまったということなのだ。

いずれにせよ積極的な意義の見出しがたいアルバム。このアルバムが出たとき、僕は、過去の音源の安直な使い回しでファンの貴重な小遣いを巻き上げるのはやめて欲しい、と痛切に思った。



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