logo 一時帰国の買い物 97年11月〜12月




■アルバム

THE BARN 佐野元春

レビューは佐野元春マニアを参照。僕はこのアルバム好きだけど。

Chicken Zombies Thee Michelle Gun Elephant

前回の一時帰国(去年12月)の時に、レコード屋でかかっていた前作があまりにかっこよくて衝動買いしてしまったミシェルさんの新譜。今回も店頭の試聴機で聴いて即買ってしまった。かっこいいとしか言いようがない。ロックの最も本質的な何かを間違いなくたたき出している。僕は新しいアーティストにはもうあまり手を出さないし、店頭で聴いて少しよくてもなかなかCDまでは買わないが(カジ君ごめん、曲はよかったよ)、この切羽つまり方には、何か人に取り返しのつかないことをさせるだけの力がある。買え。聴け。

FANTASMA Cornelius

フリッパーズ・ギターを解散してから、ほとんど社会現象にまでなった小沢に比べると小山田の活動はある意味で大変地味だった。コーネリアスとしてのデビュー作だった「The First Question Award」こそある程度ポップだったものの、前作「69/96」では、もはや当たり前のポップ・ソングでさえなければ何でもいいといったアイデア勝負の世界に入りこんでしまっているような印象を受けた。それはメロディ・メーカーとして稀有な才能を持つ小山田が、フリッパーズでそれをいったん開花させた後で、それが消費され尽くしてしまう前に自ら封印し、彼に期待される「フリッパーズ後」をアーティストとして極めて誠実に模索した結果だったのだと思う。
今作もそうした意味では前作の延長上にあり、分かりやすいポップ・ソングはほとんどない。音楽的、作品的には評価されるべきアルバムなのだろうが、今の僕の音楽を聴く環境にあっては、何度も繰り返して愛聴するようなアルバムではない。小山田はもはや自分の作品がそのように聴かれることをすら望まないのだろうか。そして僕はノイズやコラージュの隙間からほんの一瞬聞こえてくる小山田の美しいメロディを探すしかないのだろうか。「Perfect Rainbow」や「Moon Walk」、僕は本当に好きなのに。

ELEVEN GRAFFITI ORIGINAL LOVE

どうしちゃったの田島君、と思ってしまうくらい、良い。もうこれがダメだったらオリジナル・ラヴを買うのはやめようと思っていたのに。ここ数作は妙にアーシーだったり、イヤな言葉だが「ワールド・ミュージック」系だったりして、どうも田島君、もう向こうに行っちゃってるんじゃないのという感じも濃厚だったのだが、土俵際でこっちに残ってくれた。歌詞と、メロディと、ビートが持つ鋭角的な力の世界の側に。僕たちは都会の子供で、土着や辺境に依拠することの危うさ、うさん臭さには自覚的でなければならないし、何より、田島にはまだまだこっち側でやるべきことが残っているはずなのだ。久しぶりに田島の才能を素直に評価できる作品。

金字塔 中村一義

WASHINGTON,C.D. ホフ・ディラン

ホフ・ディランって前作「多摩川レコード」も買ったし、なかなか痛いところをついてくるいいバンドだと思うのだが、あの人を食ったような歌い方が耳について満点がつけにくい。今作ではおそらく彼らの本来の持ち味であろう毒の部分がかなりストレートに出ている。ほのぼのだとか現代の童謡だとか、そういうふうに彼らのことを思っている人がいるのならそれは間違いだ。「時間をかけて自殺しているようだ」と歌う「自殺(仮)」はマジでヤバい。

HERE TODAY ザ・コレクターズ

Winter Gift Pops V.A.

トッドは真実のスーパースター V.A.

a quiet couple pizzicato five

これはピチカート・ファイヴが87年にソニーからリリースしたデビュー・アルバム「カップルズ」の、ボーカル・トラックだけを抜いたインストである(嫌いな言葉で言えば「オリジナル・カラオケ」)。こんなものが95年11月に(つまり2年も前に)リリースされていたとは。まあその頃にはもう僕は日本にいなかったのだが、いずれにせよ知らなかった。「聴いて良し、歌って良し」と帯に書いてあるけど本当にその通り。今回の拾いものの一つ。



■シングル

ヤング・フォーエバー 佐野元春

言うことないだろう。

フリーダム ANDY'S

佐野元春マニア参照。

幸福な結末 大滝詠一

ついに出た、次作が今世紀中に出る可能性は薄いとレビューに書いたが、シングルではあるにしろ紛れもない新作が出てしまった。大変なことである。
編曲は井上鑑だが、「A LONG VACATION」以来のウォール・オブ・サウンドが大々的に再現されている。ストリングスが派手にフィーチャーされている分、音の厚みは増している感じさえする。節回しは相変わらずで、おなじみのリズム・パターン、カスタネットの連打、転調、ここに新しいものを見つけるのは難しいが、長い間忘れていた大事な約束をふと思い出したような、そんな気持ちにさせる。
大滝詠一がこの時期にこのような新作をリリースすることの本質的な意義を、僕はうまく評価できない。批評に判断停止や聖域があってはならないが、大滝詠一については、僕はともかく新作の到着を素直に喜びたいと思う。千円で大滝詠一の新譜が買えてお釣りがくるなんて、それだけでもとんでもないことなんだから。

TOUGH ザ・コレクターズ

かわいいひと ウルフルズ
しあわせですか ウルフルズ

「それが答えだ」がちょっとよすぎたかなと思わせる。大笑いして、笑いすぎて涙が出てくるようなベタなところ、そしてそれが実はきちんとしたロックの王道を踏襲していることから来る音楽的な安心感、それがウルフルズの命なのだが、その大前提は曲が文句なしにいいことだ。その意味でこの2枚はホームランとは言えない。まあ、ハズレもウルフルズ、「ナニナニクリスマス」(「しあわせですか」カップリング)はOK。

運命の人 スピッツ

何度かテレビでこの曲を歌うスピッツを見たが、一番いいと思ったのは、時としてマサムネのボーカルを覆い隠すほどになっているテツヤのギターだった。曲は相変わらずポップで歌詞はねじれているマサムネ節。ちょっと予定調和な部分もないでもないが、僕はこれでいいと思う。いいからどんどんバカどもにCD売りつけて金持ちになるんだ。スピッツが売れて金持ちになるのはちょっと爽快だ。ちなみに僕が一番好きなスピッツの曲は「青い車」で2番目は「鈴虫を飼う」です。

Buddy/恋しくて 小沢健二
指さえも/ダイスを転がせ 小沢健二
ある光 小沢健二

このシングルというかEP3枚で新曲が7曲、既発表曲のリテイク3曲の大サービス。アルバムはいつ出るのだろう。何度も同じことを書くようだが、消費される前にそれ以上のスピードで駆け抜けて見せたのがフリッパーズ・ギターだったとするなら、小沢のソロはもはや消費しようのない本当の強さを提示し続けることだ。そんなことが本当に可能なのか、それはやってみないと分からないのだが、いくつかの曲は、もしかしたらそれは可能なのかもしれないと思わせる力を持っている。
この3枚ではまず「恋しくて」。淡々としたストロークに乗せて歌われる「僕らが見た光」のこと。「baby, baby!」という小沢の声に思わず涙がこぼれてしまった僕は、年食って涙腺が緩くなっているのか?
困難な世界でニヒリズムに背を向ける力が必要なとき、小沢健二はそれがまだ僕たちの側に残っていることを歌い続けている。「ある光」を聴くためには、聴き手にもそうした強い覚悟が要求されると言ってよい。「この線路を降りたら すべての時間が魔法みたいに見えるか?」。小沢健二を聴くということは、この強い問いを受け止めるということだ。




Copyright Reserved
1997 NISHIGAMI, Noriyuki a.k.a. Silverboy
e-Mail address : silverboy@t-online.de