Heart Beat
セカンドアルバム。先行発売されたシングル「ガラスのジェネレーション」、アルバムと同時発売のシングル「Night Life」の各AB面をすべて収録。 実質的に伊藤銀次との共同プロデュースと言っていい作品で、ロックンロール的な疾走感にやや欠けるきらいはあるものの、佐野自身のコミットが増した分トータル感のある仕上がりとなっていると思う。この時期佐野はライブサーキットで着実に支持者を増やしつつあったものの、シングルヒットがなく、このアルバムもセールス的には成功するに至らなかった。編曲は「彼女」「Interlude」が佐野、「バルセロナの夜」と「Good Vibration」が佐野と大村雅朗の共同名義、残りの6曲が佐野と伊藤銀次との共同名義となっている。 冒頭を飾る「ガラスのジェネレーション」では、全共闘世代との決別を明確に宣言、安定した大衆消費社会の下で見出しにくい新しい世代の居場所を、都市生活の中に確保しようとする初期の基本的な姿勢が強く打ち出されている。この曲は伊藤銀次が佐野との共同作業で残した最大の仕事と評価してよい。アレンジはニック・ロウの「Cruel To Be Kind」を下敷きにしている。 この曲で佐野は「つまらない大人にはなりたくない」と歌う。おそらくは少年期的な潔癖さから歌われたであろうこのフレーズは、佐野自身の成長とともにその内部でより本源的な問いを発することになって行ったはずだ。そしてそれはまた佐野の音楽に多大な影響を受けたファンとの、ある種の約束ともなった。しかし、つまらない大人にならないということは、決して大人にならないための猶予期間を延長し続けるということではない。それは自らの成長に伴う本質的な責任を引き受けて行くということなのだ。いずれにせよそのようなテーマは、「SOMEDAY」をはじめその後多くの曲で主要なモチーフとなる。 アルバムはこの曲を軸にする格好で都市生活を内部から描写して行く。このアルバムにはその「ガラスのジェネレーション」の他にも、その後ライブで重要な位置を占めてゆくことになる「悲しきRADIO」「君をさがしている」「Heart Beat」、バラードとして人気の高い「バルセロナの夜」、デビュー前から歌い続けてきた「彼女」など重要な曲が多く収録されている。 しかしながら「バルセロナの夜」における大村雅朗の編曲がビリー・ジョエルの「Just The Way You Are」そのものであることや、「君をさがしている」の編曲がバーズ・タッチのフォークロックを目指しながら必ずしも成功しているとは言い難いことなど、一部に問題を残した。佐野はこの後編曲に対するコミットをより深め、シングル「SOMEDAY」での対位的な手法を成功させることになる。 このアルバムで好きな曲は「ガラスのジェネレーション」「バルセロナの夜」「悲しきRADIO」「Heart Beat」といったところだが、高校時代にこのアルバムばかり聴いていた時期もあったりして、冷静に判断することは困難である。「Heart Beat」はその後ライブでもたびたびアレンジを変えて歌われているが、僕はごく初期の、ビデオ「Truth '80-'84」にも収録されたオリジナルに近いアレンジが結局一番いいのではないかと思う。 1997-2021 Silverboy & Co. e-Mail address : silverboy@silverboy.com |