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THE BARN

1997.12.1発売
Epic Sony / ESCB-1849

PRODUCER :
John Simon、佐野元春
ENGINEER :
John Holbrook

作詞・作曲 :
佐野元春(ex.M-12)、John Simon(M-12)
●逃亡アルマジロのテーマ
 Theme of 'Armadillo on the Run'
 (Instrumental)
●ヤング・フォーエバー Young Forever
●7日じゃたりない
 Seven Days (are not enough)
●マナサス Manassas
●ヘイ・ラ・ラ Hey La La
●風の手のひらの上 The Answer
●ドクター Doctor
●どこにでもいる娘 An Ordinary Girl
●誰も気にしちゃいない Nobody Cares
●ドライブ Drive
●ロックンロール・ハート
 Rock and Roll Heart
●ズッキーニ − ホーボーキングの夢
 Zucchini - The Hobo King Dream
 (Instrumental)

11枚目のオリジナル・アルバム。先行シングル「ヤング・フォーエバー」を収録。前作「FRUITS」を制作する中で形作られた新しいバンド「The Hobo King Band」(「The International Hobo King Band」から改称)とともに、ウッドストックで制作された。アーティスト・クレジットは佐野元春 and The Hobo King Bandとなっている。

プロデューサーはザ・バンドの「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」などで知られるジョン・サイモン。その他にもラヴィン・スプーンフルのジョン・セバスチャン、ザ・バンドのガース・ハドソンなどをゲストに迎え、アメリカのルーツ・ロック色の濃いアーシーな仕上がりとなった。アルバム・タイトルの「THE BARN」とは「納屋」という意味で、レコーディングの行われたスタジオが納屋を改造したものであることからこのように呼ばれているのにちなんだもの。尚、ラストのインストルメンタル「ズッキーニ」は、ジョン・サイモンの作曲であり、佐野元春本人が作詞・作曲にまったく関与しない曲が収録されたのは、アルバム、シングルを通じてはじめてである。

前作「FRUITS」は、ザ・ハートランドの解散を経て、セッション・メンバー集めから始められた佐野元春のいわば再デビュー盤とも言うべき作品であった。そこには新しく始めるという緊張感がみなぎっており、楽曲もバラエティに富んでいたし、意欲的な取り組みも随所に見られた。そして佐野が再び自分の活動を巻き戻した地点から何を新しく示し得るのか、あるいは逆に何を引き継いで行くのかということをともかくも明確にしたいという強い意志のようなものが感じられた。その意志は結果としてアルバムに並べられたさまざまな楽曲群を背後から統合していたと思う。僕はそのような意味あいにおいてアルバム「FRUITS」を高く評価しているが、逆に言えばそこには音楽的な軸と呼べるものは見当たらず、「FRUITS」は新しい佐野元春のショウ・ケースのようなアルバムだったと言うことも可能だったろうと思う。

本作は、そのような手探りで試行錯誤的だった前作のレコーディングから、スペシャルを含めて3本のツアーをこなす中でバンドとしての形を固めてきたHKBとともに、その原点を確認するべく共通のバックボーン(交差点)であるウッドストックに出向いて制作されたものである。その結果アレンジ、サウンド・プロダクションは前述の通りアーシーで非常に統一感のある仕上がりとなり、クリアかつタイトで、時としてカラフルでもあった前作の音像とは好対象をなすこととなった。

そうした意味でこのアルバムはそれまでの作品の流れからは隔絶しており、そのことはかつてNYで制作され大胆なファンクへの接近を見せた「VISITORS」と共通しているように思われる。本作はおそらくワン・アンド・オンリーのアルバムとして、佐野元春の作品の中でも番外編的な作品となって行くのではないだろうか。そのような作品として、HKBがバンドのデビューのために自らの立ち位置を確認した作品として僕は本作を愛するし、その完成度を高く評価する。しかしながら、ロックという限定されたフォーマットの中で、その前衛を自ら切り拓き今までだれも鳴らさなかったような音を創り出すことこそ、佐野元春がこれまでやってきたことでありこれからもやるべきことであるとの認識に立てば、僕はこの作品の評価に少しばかり逡巡しない訳には行かない。

もっともこの作品で佐野が見せた現実認識は、これまでとの連続性に立ちながらその成長と深化をうかがわせる。例えば「誰も気にしちゃいない」では社会的な問題そのものを指差して糾弾するのではなく、それらを「せつない」と嘆いて見せることでそれが本来的に対峙する僕たちの内面の危機をこそ告発している。「ヘイ・ラ・ラ」ではいいことだけを考えながら毎日を食いつなぐ僕たちにギリギリのオプティミズムを示して見せる。そしてまた「The Answer」と英文タイトルのつけられた「風の手のひらの上」では、「答えはいつでも形を変えてそこにある」と歌い、「答えは風に吹かれている」と歌ったボブ・ディランをすら彷彿させる。佐野はようやくディランにストレートなオマージュを捧げることができるようになったのかもしれない。

本作単体としてみればアメリカン・ルーツ・ロックの良質な部分を日本語のロックとして今日的な問題意識の下に結実させた優れたアルバムであると総括することができると思う。



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