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「人生は続く もう一度言う そう カレンダーのように」

もちろんこれはゴメス・ザ・ヒットマンのデビュー・アルバムに入っている『僕はネオアコで人生を語る』の「人生は続くだろう カレンダーのように」に呼応するフレーズである。2016年1月、経堂の「芝生」というギャラリーで催された山田の「カレンダー展」の際に、狭い店内で行われたライブで『calendar song』は披露された。

「昨日のライブでは9月までしかできていなかった。今日はようやく12カ月分できました」とギター1本で軽快に歌ったこの曲が新しいアルバムの核になった。「カレンダー」という言葉が歌詞に織り込まれた曲を歌ったこの日のライブではレコード化されていなかった『気分』も演奏された。照れ臭いくらい近い距離の親密なライブだった。

人生がカレンダーのように続く、とはどういうことだろう。カレンダー的人生観。本来途切れのない時間に目印をつけるように、しおりを挟むように、僕たちは1日を、1週間を、1月を区切り、それは1年で新しい始まりに戻る。30日ごとにカレンダーの新しいページをめくりながら(あるいは破りながら)、僕たちは季節の訪れを知り、世相の移り変わりを知り、そして自分が少しずつ老いていることを知る。

1年は12カ月を繰り返す。しかし今年の7月は去年の7月とは違う。カレンダーは単線的な時間を螺旋のように定義し直す。僕たちは僕たちの時間を定義し、それをガイドにして僕たちの生を定義する。カレンダー的人生観。カレンダーの日付のひとつひとつに僕たちは時間を刻みつけて行くのだ。

このアルバムでまず最初に印象に残るのは、いずれも2003年に作られたという『気分』『ナイトライフ』『モノクローム』という、ゆっくりしたテンポの3曲だ。アルバムの冒頭にアップテンポな曲を置いて耳をキャッチする定石に逆らうように、オーバーチュアの『pale blue』に続いて収められたこの3曲で、僕たちはむしろそのひそやかな起伏に耳を澄ますことになる。

2003年といえばゴメス・ザ・ヒットマンがメジャーとの契約を失い、インディペンデントからアルバム「mono」をリリースした時期。コンビニで深夜にアルバイトをして食いつないだという当時の山田が、苦境の中で絞り出すように書いたのがこれらの曲だという。これもまた、カレンダーのように日々に焼きつけられた鮮烈な思いだ。

1993年に書いたという英語詞の『スミス』もいい。特徴的なギターのアルペジオや「Sunny day, sunny day...」という歌詞の乗せられたメロディ・ラインなどはザ・スミスそのままだが、歌詞が「日曜日にドライブに行こう」「天気がよければ彼女もご機嫌さ」的にのんびりしてるところがいい。

ここに収められた曲はどれも、山田にとってカレンダーの1枚1枚のようなものなのかもしれない。ひとつひとつの曲にインデックスをつけて並べたこのアルバムそのものが山田にとってのカレンダーだということなのだろう。敢えて今、デビュー当時のマニフェストを更新したことの意味を僕は思わずにいられない。人生は続く、そう、カレンダーのように。



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