logo 片輪の天国


僕は銀行員だ。大学を卒業してある都市銀行に就職し、今はそのデュッセルドルフ支店に勤務している。なぜ今さらそんなことをわざわざ書くかというと、それが今の僕の最も中心的なアイデンティティだということをはっきりさせておきたいからだ。職業は銀行員でネットは趣味だ、その逆じゃない。

僕は会社に全身全霊を捧げるつもりはまったくないけれど、それでも給料をもらっている以上それに見合う仕事をするのがプロというものだと考えているし、仕事において認められる存在になりたいと思う。平たくいえば会社でも「できるヤツ」でいたいし出世もしたい。仕事は適当にやっつけてそれなりの給料さえもらえればよい、家に帰ってPCに向かっているのが本当の僕なんだ、なんていうのはあんまりカッコよくないと思う。もちろん会社なんていうのはリアル・ワールドの最たるところだし僕とてその空気が積極的に「好き」な訳ではないけれど、だからといってそれを忌避し、ネットの中の生温かい共同体に立てこもりたいとは思わない。

インターネットの中に現実の社会のヒエラルキーを持ちこもうとは思わないし、ネットの中の共同体がある種の「逃げ場」や「シェルター」として機能することもあってしかるべきかもしれない。だけどリアル・ワールドできちんとしたコミュニケーションのできないヤツが、ネットの中でだけエラそうなことを言ってみても説得力があるとは思えない。もしネットがそうした片輪の天国になるのなら、僕はそんな場所にはいたくない。

僕自身、自分の資質としてネットに「行きっぱなし」になるリスクが高いと感じているからこそ、僕はあえてリアル・ワールドでの生活が「まとも」であることにこだわりたい。そこで「地に足がついている」ということを大切にしたい。そこに意地や負けん気で踏みとどまることを自分に課したいと思うのだ。

今年もネットはアメーバのように増殖して行くだろう。その中身はこれまでにも増して混沌として行くだろう。僕たちのリアル・ワールドがそうであるように。でも、そこにおいて面白いもの、見るに値するものと、つまらないもの、どうでもいいものとの区別は次第にはっきりしてくるはずだ。


2001年1月
西上典之 a.k.a.Silverboy



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