logo A Story About You / Res. 7 樋口直哉


アルバム「VISITORS」がリリースされた1984年5月、あなたは何歳で、どこで何をしていましたか。

――3歳。僕は東京で生まれたが、両親の仕事の関係で各地を点々としていた。

「VISITORS」はいつ頃、どのような形で買いましたか。

――近所の中古CD屋でベストアルバムという言葉にひかれて『No Damage 2』を買った。高校生のときだ。そして僕は佐野元春というアーティストと出会う。
佐野は僕が聞いていたどのアーティストよりも知的であり、高校生だった僕が切実に必要としていた音楽だった。そして、急いでアルバムを買い揃えていった。そして最後に買ったアルバムが『VISITORS』だった。

あなたは「VISITORS」をどのように聴きましたか。

――自室で独りで。佐野元春が好きだというおかしな人間は周りにはいなかった。周りの連中は、薄めた砂糖水みたいな曲を歌うバンドを好んでいた。
こんな表現はおかしいかもしれないがVISITORSの音楽は僕の体に全然入ってこなかった。音楽を聴くということは僕にとって、砂漠で水を飲むくらい切実な行為だ。どこか遠いところで鳴っているような音がした。

「VISITORS」というアルバムは何だったのだと思いますか。

――いまならばわかる。このアルバムが僕の体に入ってこなかったのはこのアルバムが『痛み』のアルバムだからだ。ここにはNYで暮らす佐野の痛み(それは始めての友人がドラッグで死んだような)が詰まっていた。そして、僕はその痛みに共感できなかったのだ。フィッツジェラルドの小説にも共通するあまりにも繊細で、ときに物事を鋭敏に感じすぎてしまうような主人公を佐野は歌った。
 高校生だった僕にはわからなかったが、そのあとフランスへ留学したりそして帰ってきて日常の喧騒に巻き込まれたりしていて少しだけ歳をとってから、このアルバムは切実に響いてきた。

「VISITORS 20th Anniversary Edition」は買いましたか。

――Yes。音は確実に近くで鳴っている。大音量で聞くべきだ、と僕は思う。


樋口直哉
東京生まれ。飲食店を営んでいるが、先のことはわからない。



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