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アルバム「VISITORS」がリリースされた1984年5月、あなたは何歳で、どこで何をしていましたか。

――21歳、大阪でアルバイトをしていました。今でいうフリーターです。
この年の3月に大学を中退し、つきあっていた彼女にもふられて、「これから、どこで何をしよう」と悩んでいる時期に「VISITORS」がリリースされました。

「VISITORS」はいつ頃、どのような形で買いましたか。

――発売日に自宅近くのレコード店で。
見開きのジャケットで、中にはステッカーが封入されていたし、ポスターももらいました。当時のレコード店では、特に予約をしなくても、レコードを買うとポスターやカレンダーなど、色々なものをくれた気がしますが、最近はどうなのでしょう。「VISITORS」がリリースされた頃は、まだレコードを買うことが、特別なイベントだった時代のような気がします。
佐野元春のアルバムは「No Damage」からリアルタイムで買っていますが、オリジナルアルバムは「VISITORS」が初めてでした。

あなたは「VISITORS」をどのように聴きましたか。

――発売当初は家のステレオで。「VISITORS」は大きな音で聴くべきアルバムだと思っていたので、近所迷惑なくらいのボリュームで毎日のように聴きました。

この年の夏、北海道にソロツーリングに行くことにしました。「状況を変えるには、とにかく旅に出なくては」と思ったのですが、佐野元春がニューヨークに住んで「VISITORS」を作ったことにインスパイアされた部分もあったのかもしれません。
20年前、大阪から見ると北海道はまだ未開の地といった印象もあり、バイクでそんな場所まで行くのは、ちょっとした冒険気分でした。でも、北海道をバイクで走っていると「確かに土地は広いけど、普通に人の営みがある普通の場所だな」と思いました。
帰る日も行く場所も特に決めず、泊まりはほとんどキャンプでしたが、テントの中でウオークマンに「VISITORS」をセットしてよく聴きました。ただ、開放感にあふれていた旅の中で「SHAME−君を汚したのは誰」だけはヘビーな曲に感じられたので、とばして聴いていました。
当初、夏の数ヶ月間だけ北海道にいるつもりでしたが、今も住んでいる網走でアルバイトをすることになりました。結局、大阪に戻ったのは次の年の秋。その間「VISITORS」は、ずっと旅のBGMでした。

「VISITORS」というアルバムは何だったのだと思いますか。

――よくいわれる「VISITORS」の音に対する違和感は特にありませんでした。「佐野元春の中のブルース・スプリングスティーンがプリンスに変ったんやね」とは思いましたが、発売当時にはラップやヒップポップという音楽のフォーマットを知らなかったので、定義のしようがなかった。「VISITORS」は85年当時の佐野元春のあるべき姿と素直に受け取れたのでしょう。
むしろ違和感があったのは「VISITORS」に先がけて発売された12インチシングルの「TONIGHT」でした。かつての佐野元春サウンドのにおいを残す「TONIGHT」が、やけにダンサブルにアレンジされていることに違和感があったし、この曲では踊りにくいだろうなとも思いました。
逆にいうと、ダンサブルなアレンジの「TONIGHT」を先に聴いていたから「VISITORS」の音への違和感が少なかったのかもしれません。

86年5月、北海道に滞在中に札幌の真駒内アイスアリーナで、初めて佐野元春のライブを見ました。発売から一年が経ち、ツアーで演奏され続けてきた「VISITORS」の中の曲は、以前のレパートリーに混じっても、まったく違和感がなかったし、観客の受けがとても良かったですね。
今のライブと比べると、客層がとても若く、高校生が中心だったのではないでしょうか。とにかく、みんなが踊り狂っていたライブという印象があります。
このライブの最後に天井から大量の風船が落ちてくるという仕掛けがあったのですが、ぼくはひとつも取れませんでした。でも、近くにいた女の子が風船を二つ手にしていて、ニコッと笑いながら、ぼくにひとつ差し出してくれました。その風船に書かれていた文字が「Beat Goes On」でした。風船はもう手元にはありませんが「Beat Goes On」は自分のホームページ内のコーナータイトルとして、今でも生きています。
とにかく「VISITORS」は、ぼくにとっては何かのきっかけになったアルバムです。

「VISITORS 20th Anniversary Edition」は買いましたか。

――発売日に近くのレコード店(今度は網走。近いといっても車で15分)に買いに行くと「近頃、佐野元春は仕入れてもほとんど売れないから、オーダーしてません」と言われました。
「お前の店では、もう買わん」と怒りながら自宅に帰り、即PCの電源を入れて「Amazon」でオーダーして手に入れました。


Showhey
ウエブサイト「北海道アウトドア・エキスプレス」のオーナー。二人の子供に追われる子育ての日々。主夫業の合間にフリーライターとしても活動中。佐野元春以外で好きなアーチストはボブ・ディランとマイルス・デイビス、そしてキャロル・キング



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