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アルバム「VISITORS」がリリースされた1984年5月、あなたは何歳で、どこで何をしていましたか。

――18歳。田舎から2時間かけて京都の大学に通う、大学生1年生をやっていました。

「VISITORS」はいつ頃、どのような形で買いましたか。

――発売日に、京都駅地下街、ポルタにある十字屋というレコードショップで買いました。いわゆるビニール盤の「アルバム」を買いましたね。確か店頭に、ジャケットに写ってる佐野氏の、等身大ディスプレイみたいなヤツがあって、それを恥ずかしいようなうれしい気持ちで見ていたのを覚えています。一人店頭に立ちつくし、エンドレスで流されていた「Tonight」のプロモーションビデオを、1時間くらいずっと見ていました。

あなたは「VISITORS」をどのように聴きましたか。

――高校2年あたりから本格的な佐野ファンになったぼくにとって、最大の盛り上がりは1982年クリスマス・イヴのライヴだったんです。同じ高校の佐野ファンばかり8人くらいで見に行きました。全員男だったんですけどね。色気のないクリスマス・イヴだよなぁ。それで、もうこれ以上ないというくらいライヴを堪能して、その後のぼくの生活は以前にも増して完全に佐野中心のそれとなっていたんです。ファーストからサードまでの中からチョイスした独自ベスト・テープを作り、ウォークマンにぶちこんで持ち歩く。文字通りそれを毎日聴いていましたし、佐野氏の記事が載っている雑誌もすべてチェックしていました。けどそんな中、1983年春に佐野氏は突然ニューヨークへ行ってしまった、と。翌年にかけての1年間は、高校3年だったぼくにとって受験勉強に打ち込まなければいけない時期だったはずなんですが、勉強もそこそこに、渡米前に発表された「グッドバイからはじめよう/モリスンは朝、空港で」を聴き、佐野氏のサウンドストリートを毎週聴き、佐野氏の過去のアルバムを聴き、という中で、すごく新曲に飢えていた状況だったんです。そんな中、ニューヨークでレコーディングされたアルバムが発表された、と。最初は向こうでアルバム作ってくるとか聞いていなかったので、かなり興奮したのを覚えています。手に入れてからは、それこそむさぼるように聴きましたね。歌詞が発表される前から自分で聴き取ったりしたし(間違いだらけでしたが)。もう、「ただ聴いた」という感じですね。「日本における先駆的なヒップホップ」も「スポークン・ワーズ」も今だから言える事であって当時はそんなの何も分からなかったですから。「佐野元春の新譜」を前にしてぼくは、何も考えず、何も判断せず、何の批評もせず、ただただそこにある音を繰り返し繰り返し聴いていました。それは、至極当たり前の事だったからです。

「VISITORS」というアルバムは何だったのだと思いますか。

――この年齢になってくると、去年の今頃、何をしていたのか思い出せない事が多いです。来年も今年とあんまり変わらない1年だろうなぁと思います。再来年もそうでしょう。1年1年の比重がどんどん軽くなっているように感じます。年喰ってくるとみんなそうでしょうけどね。けど、「VISITORS」を聴きまくっていた1984年は、ぼくにとって本当に密度の濃い年だったと言えます。京都市バスの車体カラー、無機質な地下鉄のホーム、よく泊まらせてもらっていた友達のアパートの階段…。今でも当時見ていた風景、聞いた音、かいだ匂いやなんか、そんな色んな事が鮮やかに蘇ってくるようです。このアルバムは、ぼくの人生のうちのもっとも感受性の強い時期に、それこそ「生活の一部だった」と言ってもいいくらいの存在として、ぼくの側にいました。それくらい意味のあるものでしたね。また、高校生活では佐野ファン同士で穏やかなグループができていたような状況だったのですが、その高校も卒業し、一緒にライヴに行った面々とも離ればなれになり、一人で大学に通う…。まさに「個としての自分」と向き合わざるを得ない状態だったワケです。そうした自分の心情と、あの張りつめたような音世界は、なにかしら同期していたようにも感じます。

「VISITORS 20th Anniversary Edition」は買いましたか。

――迷った末に買いました。自分の耳では聞き分けられない故、リマスタリングそのものにはさほど魅力を感じなかったけど、やっぱりボーナストラックがうれしかったですね。ひとつは「Complication Shakedown」と「Wild On The Street」のエクステンデッド・クラブ・ミックス。この2曲に関しては断然エクステンデッド・ヴァージョンの方がカッコいいと思うので、やっぱりこのミックスがきちんと入っていたのはうれしいです。両方とも昔12インチを持っていたけど、もう何年も聴いていなかったので非常に懐かしかったです。改めてカッコよさを確認しました。で、もうひとつはなんと言っても「Complication...」のプロモヴィデオですよ。当時はCMでちょっとだけ見せられただけだったからよけいに内容が気になって、むちゃくちゃ見たいと思っていたのにけっきょく20年おあずけ喰らっていた形ですからね。いやほんと、感無量でしたよ。特に「体のダンス…」のところの佐野氏の踊りとか、最初の「操り人形」になっている佐野氏のメイクとか踊りとか、もうたまりません。正直、これ見るために買ったようなものです。買ってよかった。しみじみ。


mine-D
ウェブ・サイト「mine-D's SPICE」のオーナーであり僕の高校時代からの友人。このアルバムに関する想いもかなり僕と重なる部分がある。そういえば、僕のサイトと共同で「Crazy Strawberry-Lover」なんて企画もやってる。



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