VISITORS 20th Anniversary Edition
アルバム「VISITORS」の発表20周年記念としてリリースされたスペシャル・パッケージ。これまでCD化されたことのなかった12インチ・シングル音源をボーナス・トラックとして収録、当時のライブ映像やビデオ・クリップを収めたDVD(別項にて解説)との2枚組で発売された。歌詞の他、雑誌「バァフアウト!」の山崎二郎によるライナーノーツ、発売当時の雑誌記事、小坂洋二、湊剛らによるレビュー等を掲載したブックレット綴じ込み製本仕様の特別ジャケットで、帯の記載によれば「完全生産限定版」。 従来からリリースされている通常仕様の「VISITORS」に比べれば、リマスタリングされたことによって音の立ち上がりは格段によくなっているが、新たなリミックス等はなく、基本的にオリジナル音源をよりダイナミックに再現したもの。通常盤の音像がどこかくぐもって奥の方に引っこんでいたのに比べ、今回のリリースではまるでスピーカーのすぐ後ろにバンドがいるかのような近くて強い音が空気を震わせる。是非とも出力の高いスピーカーで、近所には迷惑かもしれないがヴォリュームを上げて聴いてみたい。 驚くべきなのはそうやって再生される当時の音が現在においてもまったく古くさく感じられないどころか、ナマの楽器演奏による精緻な16ビートの試みが、今日の打ち込み音に慣らされた耳にはむしろより生き生きと、リアルに迫ってくることだろう。思えば当時佐野が目指したものは、決してニューヨークの街路で炸裂していたラップ、ヒップ・ホップそのものの模倣ではなく、それを自分の中にあるロックンロールの文脈や日本語による表現とのぶつかり合いの中で再構成する試みだった。そのぶつかり合いは必然的に大きなテンションを孕んだ位相の高いエネルギーの奔流を生んだし、その力は20年の歳月を経ても決して色あせるようなものではなかったのだ。この新しいリマスター盤を聴くとそのことがよく分かる。 もちろんその試みは当時いろんな波紋を呼んだ。それは渡米以前の佐野の音楽からはあまりにも「逸脱」していたからだ。だが、佐野はこの作品の持つ強い訴求力をテコに力ずくでファンの中に居場所を確保していった。メディアがこの作品の意味、価値を計りかねている間に、佐野とファンとの間には新しい約束が次々と成立していった。佐野が今日まで20年以上にわたって音楽活動を続けてこられたのは、このとき渡米して「VISITORS」を作ったからこそだと僕は思う。そうして「昔のピンナップ」をすべて壁からはがして捨ててしまったからこそ、佐野はファンの信頼を勝ち得ることができたのだし、表現的にも袋小路に迷いこまず自分の音楽を更新し続けることができたのだ。 最近、僕は思う。佐野の音楽の最も幸福な時期は、確かに「BACK TO THE STREET」からアルバム「SOMEDAY」に至る初期の三部作(プラス「No Damage」)であった。そこでは佐野の若い想像力とファンの無邪気なエネルギーが実に過不足なく重なりあっていた。しかし、僕たちが本当に聴くべきものは、むしろ「VISITORS」以降の、佐野の苦悩と呻吟の中にこそあるのかもしれない。なぜなら、僕たちはだれも成長という物語から自由ではいられないからであり、佐野もまた、そのような肉体と精神の不可避的なきしみの中で表現を続けているのだから、と。 2004 Silverboy & Co. e-Mail address : silverboy@silverboy.com |