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2014年10月20日(月)。予定のない休暇なので思い立って日光に行ってみることにした。日光というのは、関東の人たちには子供の頃から遠足やら修学旅行で訪れるポピュラーな観光地らしいが、僕のような関西人にとってはあまり行く機会のない場所である。せっかく東京に住んでいるんだし、一度くらいは行っておくかと思った訳である。

朝6時に起きた。気温は20度前後、天気も悪くない。行楽日和の秋の日だ。紅葉の季節でもあり、休日ならきっと混むんだろうけど、平日なので大丈夫のはず。夕方から雨の予報だが、それまでに見るべきところを見て帰途につこうという目論見だ。

立ち上がりが勝負なので、7時過ぎにクルマで都内の自宅を出た。家の近くのガソリン・スタンドで満タンにして距離計もリセット。スタンドを出たのはおそらく7時半頃だったと思う。首都高を通り抜けて中央道へ。埼スタを横目で見ながらひたすら北上する。渋滞もなくいい調子のドライブで宇都宮から日光宇都宮道路へ。迷うこともなく9時半頃には第一の目的地である東照宮に到着した。

東照宮の猿と猫

駐車場にクルマを停め、正面の石鳥居をくぐって境内に入ると左手に五重塔がある。「宮」というくらいなので神社だと思うのだがなぜ五重塔があるのか。神仏習合ということか。まあ、固いことは言うまい。拝観受付所で入場券を買う。1,300円とやや高めだが維持にはカネもかかるのだろう。快く払って表門を入る。

チケットをもぎってもらい表門を入ると左手に神厩舎という馬小屋がある。ここの欄間に有名な三猿の彫刻がある。見ざる聞かざる言わざるというアレだ。他にも猿の彫刻があり、人の一生を風刺しているのだそうだが、三猿はその一場面である。というようなことをツアーのガイドが説明していたので立ち聞きした。着色がしっかり残っており表情もユーモラスで印象深い。

御水舎で手口を清め、順路に沿って境内を進むと左右に鼓楼と鐘楼。どちらもスカートのように下に広がった塔屋の姿で大陸的な感じ。あんまり見たことない構造。さらに進むと陽明門。国宝であるが修復中で全体にシートが被せられており全容は見られず。門をくぐる。

境内右手に奥宮に至る門があるので先にそちらに行くことにする。ここには別の受付があり、チケットをもう一度もぎってもらうことになる。ここの欄間には眠り猫が。ちょっと奥まったところにあり今イチ見にくいが、近寄ってよく見ると愛らしい顔をしている。

門を出ると石段が続く。ひたすら階段を昇る。石段は幅が1メートル以上もあるが、すべてのステップがひとつの石でできており、ステップに継ぎ目がない。200段あるという石段を昇りきると、奥宮の拝殿があり、その奥にこの神社の祭神である徳川家康の霊廟がある。神域の周囲を歩いて中央の宝塔を眺めることができるのでこれはお得感がある。拝殿で二礼二拍手一礼。

鳴竜

石段を下り唐門から御本社へ。靴を脱いで上がり、前のグループの説明を待っている間に自然に人がたまる。前が終わると拝殿に上げてもらえ、畳に座りこんで係のおじさんが説明をしてくれるのを聴く。手なれた説明で分かりやすい。天井の竜の絵が100枚あるが全部姿が違うそうで描く方も大変だったことだろうと思う。おじさんの導きにより二礼二拍手一礼。説明の最後にお守りのセールスが入っているのは大人の事情か。

御本社を辞し、陽明門から出ると右手に薬師堂(本地堂とも)という建物がある。見逃してしまいそうだがチケットにもう1枚半券が付いているので行かねばならぬ。入口で靴を脱いで上がるとここでも人が集まるのを待っておじさんが説明をしてくれる。天井に大きな1枚の竜の絵があり、その顔の下辺りの特定の場所で拍子木を鳴らすと天井が共鳴して鈴のような音が聞こえることから、これを竜の鳴き声に見立てて鳴竜と呼ぶのだそうだ。

おじさんが実際に拍子木を鳴らして実演してくれるのだが、確かに鳴きのポイントがあるようでなかなかアメイジングなアトラクションになっている。おじさんが流暢な英語でも説明してくれるので、外国人の観光客も「オー、ドラゴン」的な感嘆の表情である。ここでも説明の終わりに穴のない珍しい鈴(7色あり)を勧めてくれる。もちろんムリに買わなくていい。

以上で東照宮の参詣を終え、表門から外界に出たが、気軽に一回りするつもりが、気がつけば10時半をまわっており、しっかり1時間以上もいたことになる。奈良・京都の寺社を見慣れた目には趣の違う凝りに凝った感じのカラフル、バブリーな神社で、なかなかアトラクティヴだった。江戸時代というのはそういうテイストだったのだろう。よく分からないけど。1,300円の価値はあったと思うが、階段が結構あるので、本格的に足腰が弱る前にまた来ようと思った。

二荒山神社、大猷院、湯葉そば

東照宮を出ると、二荒山(ふたらさん)神社の看板が目に入り、徒歩5分と描かれていたのでそっちも行ってみることに。手水舎で身を清めてから拝殿でお参り。拝観料の要る奥には入らなかった。

参詣を終えて参道を下って行くと、今度は大猷院の看板が目に。徳川家光の墓所であり輪王寺という寺の一部らしい。入場料が550円ということでどうしようか迷ったが次にいつ来るか分からないので入ってみることにした。東照宮に比べれば閑静な境内でここにも東照宮に似た鼓楼と鐘楼があった。

拝殿で参拝。本殿を回りこむと皇嘉門という思わせぶりな門がある。絵本に出てくる竜宮城を思わせる。この奥には拝殿と家光の遺骸を納めた宝塔などからなる奥院があるらしいが残念ながら家康廟と異なりこちらは奥には入れてもらえないようだ。人影もまばらな境内を歩いて戻る。東照宮ほどの派手さはないが、こっちの方が神域に来ている感はあった。

大猷院を出て二荒山神社の参道を下って行くと国道120号線に出る。既に11時をまわっていたので昼ごはんでも食べようと沿道のそば屋に。日光では湯葉(ここでは「湯波」と)が名物ということで湯葉そばなるものを頼む。出てきたのは熱いそばに巻き湯葉が二つほど乗ったもの。生湯葉を刺身で食べるのは好きだが、しっかり煮含められた巻き湯葉はいかにも精進料理という感じで、高野豆腐にも似て味はそれなり。1,000円。

いろは坂の渋滞

そこからクルマに乗り、国道120号線で中禅寺湖を目指した。いわゆるいろは坂であるが、日光から中禅寺湖方面はあとから作られた第二いろは坂を経由して行くことになる。ところが道路は清滝ICの手前から激しく渋滞。普通に行けば30分ほどの道のりのはずがなかなか進まない。

我慢してのろのろ進んでいると、ようやく第一いろは坂と別れ二車線になるところから急に道が空いた。ここからは急な上り坂と折り返しのヘアピン・カーブの連続。大阪と奈良をつなぐ阪奈道路や信貴生駒スカイライン仕込みの僕としては、かつて乗っていたマツダ・ロードスターなんかのマニュアル・シフトでぐいぐい走りたいところだが、オートマチックのデミオもしっかり走ってくれる。

ところが、中禅寺湖まであと4kmほどというところでまた急に渋滞。ポツポツと雨が降り始め、次第に激しい雨に。明智平のレストハウスを過ぎ、山道をトロトロ進むと急に信号があり、湖畔に出た。僕としては「山を越えて」中禅寺湖に出るというイメージであったが、中禅寺湖自体が海抜1,200mと高いところにあり、実際は日光から中禅寺湖に向かって山を登るということであったと知る。

湖畔の県営駐車場にクルマを停め、クルマに常備している傘をさして遊覧船の乗り場に行ってみたが、1時半の船は無情にも目の前で出港したばかり。仕方がないので華厳の滝を見に行くことにする。

華厳の滝

華厳の滝は中禅寺湖の遊覧船乗り場から徒歩で15分足らず。これも無知をさらすようだが、僕としては滝というのは高いところから低いところへ落ちるもののはずなのに、湖畔から15分で登れるような高峰も見当たらず、いったいどこに滝があるのだろうと不思議に思っていた。

道案内に従って湖畔から東に進むと、いきなり滝見の展望台が現れる。ここから見ると、はるか下の渓谷にどうどうと流れ落ちる豪快な滝が見えた。なるほど、勇壮な風景である。華厳の滝とは中禅寺湖から流れ出た川がさらに下の谷に落ちる滝であったのだ。そうであれば手近に高い峰が見えないのも頷ける。

中禅寺湖は上流の竜頭の滝から流れ落ちた川の流れが男体山の噴火による溶岩でせき止められてできた湖であり、そのいわば出口が華厳の滝。したがって滝は中禅寺湖の湖面より下に落ちるのであった。

展望台からはエレベータで渓谷に降りることができる。どうせ遊覧船を待つ間なので乗ってみた。550円。これはかつて夏休みを過ごしたソレント(イタリア)のホテルから崖下の海岸に降りて行くエレベータとか、ベルヒテスガーデン(ドイツ)の山の上にヒトラーが作らせたケールシュタイン山荘に登るエレベータを思わせる。100mを1分で降り、滝を下から臨む展望台へ。

大きな音を立てて落ちる落差100mの滝は水量豊富、造形もバランスよく、正しく絶景である。自然の妙に打たれる。雨の中での観滝であったが名瀑の名にふさわしい迫力であった。大滝詠一の冥福を祈った。

中禅寺湖遊覧船

再びエレベータで湖面の高さに戻り、遊覧船乗り場へ。チケットを買って2時半の出港を待つ。1,250円。雨のせいか乗客は少なく、右舷の窓際の席を苦もなく確保。遊覧船は反時計回りに湖を一周するので、アナウンスを聴きながら景色を見るには右舷に座るに限るが、みんなが右舷に集まると船が傾くのでこれは内緒である。

船は約55分で湖を一周。途中、二か所の船着場で乗客が入れ替わる。これも雨の中の遊覧で残念だったが、男体山の優美な姿や湖畔の濃淡鮮やかな紅葉などがのんびり堪能できた。上述の通り、中禅寺湖は溶岩による堰止湖であり、上流も下流も滝になっているためもともと魚はいなかったという説明に感嘆した。今は放流の結果マスやワカサギなどが生息しており漁業資源になっているらしい。

遊覧を終えると3時半。雨は依然として激しく降っているし、予定のコースは一通り見たので帰路に。帰りはオリジナルのいろは坂を下ることになるが、ここも渋滞。ノロノロと山道を下る。空いていればふだん使うことのない「L」レンジを駆使してエンジン・ブレーキをガンガン効かせるのに、と思いながら清滝ICにたどり着き、ここから日光宇都宮道路に。

雨の中のドライブで次第に日も暮れ始める。スピードも抑えめで走らざるを得ない。途中、大谷PAに寄ってお土産を買った。鹿沼ICを過ぎたところから工事渋滞で10kmを約1時間かかったり、首都高では中央環状線から新宿線に分岐する列に並び損ねるなどもありつつ、結局7時半頃自宅に無事到着。

思っていた以上にしっかり見るべきところがあり、中身の濃い一日だった。特に東照宮は江戸幕府の威信がかかっているというかハッタリが効いているというか、なかなか飽きさせない。陽明門を見られなかったのが残念だが、足腰がまともなうちの再訪を期したい。



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