![]() 出発――開園は何時だ? 2003年12月8日、今日は有給休暇を取って東京ディズニーランドへ行く日だ。前日からワクワクして眠れなかった、というほどではないにせよ、正直言って僕もディズニーランドは嫌いではない。別にミッキーマウスとか何だとかのキャラクターに思い入れがある訳ではないのだが、アトラクションやショウが非常に洗練されていて単純に楽しめるところがよい。これは当たり前のようでいて実は相当難しいことだ。 ピカピカのテーマパークを作ること自体はそれほど難しくない。だけど、カネを払って楽しい思いを求めに来た人を決して失望させずに帰すということは簡単なことではないし、そのためにアトラクションやパレードといった出し物から物品販売やトイレ掃除までを組織し、洗練するには膨大なエネルギーとノウハウが必要になる。テーマパーク、遊園地は日本中に星の数ほどあるが、それをきちんとやり続けているところは本当に数えるほどしかないし、いうまでもなくTDLはその第一人者である。これにならカネを払ってもいいと思わせるそのプロフェッショナリティが僕は好きなのだ。 さて、天気は快晴、寒さも心配したほどではないようだ。前日にウェブで調べたところ当日の開園時間は午前9時だというので朝7時半に出かけることにした。クルマで順調にいけば1時間もかからない道のりだが、何しろ月曜日の朝なのでそれなりに道が混んでいることは計算に入れなければならない。結局7時半過ぎに家を出て、首都高経由8時半過ぎに着いた。多少の渋滞はあったがまあ覚悟の範囲内である。 ところで東京ディズニーリゾートの公式サイトによると、クルマで東京方面からアクセスするときには首都高湾岸線を浦安インターで降りてそのままどんどん千葉方面に向かい、かなり先でターンして戻ってこいということになっている。僕も一度やったことがあるが、平日の朝は国道357号を千葉方面から東京に向かう渋滞に巻き込まれてなかなかパークに近づけない。賢明なる読者諸氏は既にご承知のことと思うが、首都高はひとつ手前の葛西インターで降りるのがいいんじゃないかと思う。 で、8時半過ぎに着いてみると既に入場が始まっている。チケットを買って少しだけ並んで開園ダッシュ、と思っていたのにもう開いてんじゃん。どうも8時半には開園していたようだ。なんなんだ。まあいい、そんなことにこだわっている場合ではない、この開園直後の時間に何をするかでその後の動きが決まってしまうのである。今回は一番の人気アトラクションであるプーさんのハニーハントに直行しファストパスをもらおうとしたが既に40分待ち。いや、だからファストパスを取るための列が40分待ちなんだっつの。実際には30分くらいだったと思うが、で、もらったファストパスは12:10。なんていうか、ひどい話である。 座りこみ反対 この日は事故を起こしたばかりのスペースマウンテンとピノキオが休止中。ポップコーンの屋台に既に列ができているのを見て、前回買ったポップコーン・バケツを持ってくるのを忘れたと気づいた。仕方なく新しいバケツを買ったが、それにしてもあのキャラメル味の甘いポップコーンは何とかならないのか。ポップコーンというのは塩味と昔から相場が決まってんだろが。 最初のアトラクションはピーターパン。待ち時間は20分ほど。このアトラクションは最初ウェンディの部屋の窓から外に飛び出すところと、その眼下に広がる夜景が好き。続いてホーンテッドマンションへ。これも20分程度だったかな。ここでは立体映像で幽霊の食事風景や舞踏会を見せるシーンがお気に入り。 ホーンテッド・マンションの出口がちょうどパレードルートのスタート地点になっていて、11時からの「ドリーム・オブ・クリスマス」というパレードのために人々がレジャーシートを敷いて待っているのに出会った。時計を見るとあと20分ほどで11時というところだったので、そのまま隙間を見つけてそこでパレードを待つことにした。レジャーシートを持ってきていなかったので100円ショップで買った折りたたみ椅子に座ろうとしたら「椅子に座るのはご遠慮ください」と注意されてしまったので、アランジアロンゾ柄の携帯毛布(いろいろ持ってきているのである)を広げて座りこんだ。 それにしてもあの「座りこみ」はみっともないよな。パリのディズニーランドでだってみんなパレードを待って場所取りしてたけど、座りこんでいる人はだれもいなかったぞ。たぶんアメリカのディズニーランドでだってレジャーシート広げて座りこんでいる人はいないはずだ。いや、ここは日本なのだ、花見と同じでレジャーシートに座りこんで場所取りするのは伝統なのだという人がいるかもしれない。しかしTDLは弁当を広げるという麗しい日本的習俗を拒絶した前歴があるじゃないか。 ここは「みっともない和風の生活スタイル」を排除することでみんながアメリカンな夢に酔うところじゃなかったのか。弁当を広げるのがダメならレジャーシートだってダメだろう。てか僕的には弁当よりレジャーシートで場所取りの方がよっぽどみっともなく見える。園内のレジャーシート座りこみは禁止、場所取りは立って、ということにして欲しい。1時間も立ったまま待てないよ、という声はないだろう。だってアトラクションの行列ならみんな1時間くらい平気で立ってんじゃん。 パレードはまあまあだった。このパレードって去年も見たような気がするなあ、去年も今頃の時期に来たんだっけなあ、とか思いながら見送った。それにしても隣で見ていた高校生くらいの女の子二人連れがフロートに乗ったミッキーマウスを見て「キャー、ミッキー!!」と黄色い叫び声をあげていたのが不気味だった。こいつらの現実認識はいったいどうなってるんだろう。君たち、いいかい、あの中には人が入ってるんだよ。早く彼氏でも見つけた方がいいんじゃないかと思った。このホーンテッド・マンションの出口のところは反対側が壁になっているのでキャラクターがみんなこっちを向いてくれるところがお得な感じだった。あと、園内で真っ先にパレードが終わるので、見送った後目当てのアトラクションにダッシュすれば結構空いてるというメリットもある。 で、我々はスモールワールドへ回ったんだがここが意外な行列。ふだんなら待ち時間なんか気にせずすぐ乗れる数少ないアトラクションのひとつなのに、なんと臨時のファストパスまで出ているのだ。スタンドバイでも30分未満の待ち時間だったので並んだが、中でかかっている音楽がクリスマス版だったというのと人形の衣装や飾りつけが微妙にクリスマスっぽいという以外に変わったところはなかった。なんで急に人が押しかけるのか、謎である。 出てくるとかなり人が増えている。往来にも不自由するくらいの混みようである。平日なのになぜ? いや、まあ、これで混んでるなんて言ってるようじゃ週末のディズニーランドなんて来られないんだろうけどさ。それにしてもこれまでの平日よりは確実に混んでる気がした。クリスマス・シーズンだし、それにたぶん遠くから来ている人が、週末にもう一日有給休暇くっつけてたりするんだろうな。そういえば関西弁がかなり聞こえてきたし。 オ・タ・ク ここで12時近くになったのでハニーハントの前でファストパスの時間が来るのを待った。試しに覗いてみるとファストパスの新規発行はもう終わっていた。恐るべし、プーさん…。このアトラクションはレールなしで走り回るポット型のゴンドラが目新しいが、ここまで人が押し寄せるほどのものかとも思う。まあ、比較的新しいアトラクションだし、ガキどものプーさん人気もあるんだろうが。 無事プーを見てトゥモローランドに向かった。こっちの方は結構空いていたので、やっぱりファンタジーランドが異常に混み合っていたのだと思った。そろそろメシも食いたい時分だったが、まさにメシ時なので食堂はどこも混んでるだろうと思って先にいくつかアトラクションを見ることにした。まずミクロアドベンチャーのファストパスを取ろうとしたらスタンドバイで15分とかだったのでそのまま入場。なんか15分以上待ったような気もしたが。 中身はパリで見たのと同じだったが日本語吹き替えなので分かりやすかった。ザリンスキー博士が小型のホーバーに乗ってネオンにぶち当たり、「N E R D」と文字が壊れ残るところが面白かったがだれも笑ってなかったので笑うのは遠慮しておいた。あと、足許には荷物を置かない方がいいようだ。 その後スターツアーズへ。これは僕がスペースマウンテンと並んで好きなアトラクションだ。仕組みは他愛ないが、宇宙船があの溝みたいなところをくぐり抜けて飛んで行く快感が病みつき。「STAR WARS」見てグッときた映像をそのまま体感させてくれる訳でこれはポイント高い。空いてるときだと2回とか3回リピートしてしまうアトラクション。 パン・ギャラクティック・ピザ・ポートで昼メシを食い、ミッキーのメリー・クリスマスというショウの座席券の抽選をやってみたが外れた。抽選会場はスターツアーズの隣。抽選するだけで人が並んでる。当たったら見て行こうと思ったがそこまで執着もしてなかったので簡単に諦めた。これって、当たりチケットをダフるヤツとか出そうだよな。 地味なグランドサーキットを2周してからアドベンチャーランドに回った。かなり疲れも出ていたので最後のアトラクションということでジャングルクルーズへ。この年になるとお兄さんのベタなトークにも結構素直に笑えてしまうところが怖い。ていうかこういうのは一緒に楽しまないと損だろ。それはそれで結構面白いし。トークも毎回微妙にアレンジしてあるし、それなりの努力の跡は伺えた。 アーケードで買い物して帰ろうと思ってたが、ここも結構な人で、ほんのちょっと見ただけでやる気をなくしてしまった。流れるヤツとかしゃれたTシャツとかマグカップとかゆっくり探したい気もしたんだけど。今度空いてるときに見てみよう、ていうかそんなときがあるのかどうか知らないけど。パークを後にしたのは結局16時半くらいだったと思うけど、既に真っ暗。帰りの首都高も一部混んだが1時間強くらいで帰り着けた。 それにしても… スモールワールドを見ていたときのことだ。これは世界各国の民族衣装を着た子供の人形が立ち並ぶパビリオンの中を船で回るというアトラクションなのだが、日本のコーナーでは着物を着た子供が鳥居の下に立っており別の子供たちが凧揚げをしているのである。まあ、世界における日本の認識なんてそんなもんだし中国とごっちゃにされてないだけマシだというものだが(日本にあるんだから当たり前か…)、同じ船に乗ってた客はそれを見てやはり「ええ?! あれが日本?! ヘンなの」と口走っていた。 もちろん鳥居も着物も凧揚げも日本には違いない。そして我々が世界に日本を説明するとき、結局はそういう「伝統」みたいなものを抜きには語れないことも事実である。しかし一方でそれを見て「ヘン」と思うくらい我々の日常生活はそうした「伝統」と切断され、そういったものと関係のない場所で毎日が過ぎて行く。我々はまるで白人にでもなったような気分で奇妙な和洋折衷の生活様式を当たり前だと感じている。 だから我々はそうした伝統的な日本を見せられても、それが自分たちの国のことだと感じられなくなりつつある訳だ。それはつまり自分の顔を鏡で見ても自分だと分からなくなるのと同じことだ。これは私の顔ではない、こんなアジア人の、モンゴロイドの顔は私の顔ではない、と。しかし我々は紛れもなくアジア人でありモンゴロイドである。箸で器用にメシを食い、畳の部屋で寝る正真正銘の日本人である。だがそうした我々の日常生活は、「伝統」と「西洋」の間のどこに着地するのか。 別にここでナショナル・アイデンティティがどうだとか難しい話をするつもりはないが、あのパビリオンの中で、僕たちの当たり前の日常感覚の居場所はどこかにあるんだろうかと少し考えてしまったのだった。 2003 Silverboy & Co. e-Mail address : silverboy@silverboy.com |