logo アントワープ


■2001年12月30日(日)

●年末年始は家でおとなしく過ごす予定だったんだけど、急に思い立ってアントワープへ行くことにした。せっかくの4連休に近所の買い物だけではもったいないという「旅行貧乏性」のなせるワザ。アントワープは以前に一度訪れたことがあり、ハードロック・カフェでTシャツを買ったりもしたんだけど、「フランダースの犬」のネロがルーベンスの絵を見ながらパトラッシュと一緒に息を引き取った大聖堂などは見学していなかったのでずっと気になっていたのだ。何より流れるボールペンを買ってないし。
●朝10時頃出ていったのだが、家を出てすぐ恐ろしい吹雪になり、高速道路の路面までが真っ白というかなりヤバい状態。引き返そうかどうしようか随分迷ったんだけど、一応スノータイヤは装着しているし、遠くの空が明るかったので、オランダ国境あたりまで行って改善が見られないようなら諦めようということにする。そうやってしばらく走っていると雪もまばらになり、ところによっては陽も射したりしているので、これは行くしかないだろうということでオランダ国境を越えたのだった。
●という訳でオランダ領内を通過してベルギーへ。距離は200km強、途中で吹雪のため徐行を余儀なくされたこともありかかった時間は約2時間ちょっとだった。でもクルマでよその街に出かけて困るのは高速道路より市内に入ってからだ。宿泊旅行みたいにホテルという目的地があるときはともかく(それでもホテルを探すのに難儀することはあるけど、アムステルダムに行った時みたいに)、日帰りの場合はなるべく街の中心まで乗り入れてからしかるべきところに駐車するのはなかなか難しい。
●僕はだいたい見知らぬ人に道を訊いたりするのが苦手なので、たいていは頼りない地図と周囲の様子とカンを頼りに自力で街の中心というか「ヘソ」を探すのだが、今回は市街地に入ったところでいったんクルマを停め、道行く人に地図を見せて「すみませんが我々は今この地図のどこにいるのでしょうか」と尋ねてみた。二人に訊いてみたのだが、分かったことは我々はまだ地図の範囲に入っていないということと、そのまままっすぐ行けばあと1kmほどで中央駅前に突っこむということだった。
●ヨーロッパの人はこういうときには極めて親切に教えてくれるので助かる。ドイツ人なんか知らない道でも教えてくれるんだから。「オレは分からないけど知ってる人に訊いてやる、待ってろ」みたいな感じでどんどん人が集まって大騒ぎになることだって珍しくない。人がいいというかお節介というか純朴な人たちである。逆に道を訊かれることも多い。なんでオレみたいな露骨な東洋人に道を訊くんだ、もっと地元の人っぽい人を探すんじゃないのか普通、と思うんだがどうもその辺はあまり頓着しないらしい。
●で、そのまま街の中心に乗り入れ、道なりに奥へ奥へと分け入ったところで、路肩に空いたスペースを見つけて縦列駐車した。僕もヨーロッパに来て縦列は随分上達したと思う。イタリア人なんか神業だもんな。まあヤツらは前後のクルマにコツンと当てるくらいは何とも思ってないみたいだけど。クルマを降りて通りの名前を地図と照合した結果、中心の広場グローテ・マルクトまで徒歩5分だということが分かった。どうだ、オレのカンは。
●グローテ・マルクトにたどり着くと仮設のスケートリンクと食べ物の屋台が広場いっぱいに設営され、結構な人出で賑わっていた。この広場にはルネッサンス様式の市庁舎が建っており、先に書いたとおりこの街の観光の中心だ。そして広場を抜けると目当ての大聖堂が。早速見学しようと思ったがそういえばベルギーフランが手許にない。明後日からユーロになるのに今さらベルギーフランに両替するのはいかにもバカらしかったが、入場料を払わないことには入れてもらえそうにないので仕方なく両替所を探して50マルク(3千円弱)をベルフラに両替した。両替所が開いててよかった。
●大聖堂(ノートルダム大寺院)は入場料80フラン。在ヨーロッパ7年の僕としてはこういう教会は珍しくもないが、一応脱帽して静かに見学する。ルーベンスの絵は「キリストの昇架」と「キリストの降架」、「聖母昇天」など4枚あるらしい(あとの1枚はよく分からなかった)。これがネロの見たかった絵なんだね、という感じで感慨深く拝見する。ついでにというか何というか、せっかくの機会なので神様に今年のご加護を感謝し来年の無病息災をお祈りする。まあ初詣の代わりである。別に僕はクリスチャンでもないのだが、郷に入っては郷に従えということで地場の神様にお願いしておくのがやはり最も手堅いだろうと。
●外へ出て土産物屋で流れるボールペンを1本ゲットした。それにしても結構観光客がいるので驚いた。日本人の団体も見かけた。やはり「犬」の効果か。この話、地元ベルギーではあまり知られていないらしい。だって書いたのはイギリス人らしいから。日本ではかつて日曜日の午後7時半からアニメ放映したのが効いているんだろう。でも教会で僕たちと一緒だった日本人の女子大生らしき二人組なんかは「フランダースの犬」知ってるのかなあ。
●あまりレストランにゆっくり座り込んで本格的な昼食を取る気もなかったので、屋台でパエリアを買って立ち食いしたが結構美味しかった。ついでにグリューヴァインも飲んで暖まった。ベルギーのこのあたりはオランダ語(正確にはフラマン語)が公用語だが、オランダ語はドイツ語とかなり似ており書いてあることは何となく理解できるしドイツ語で話しても簡単なことなら結構分かってもらえる。グリューヴァインなんていうのもドイツ語そのものじゃねえか、と思いながらフーフー冷まして飲んだ。
●ルーベンスと流れるボールペンという2大テーマをこなしたので午後2時半頃再びクルマに乗り込んで家路についた。ここから少しいったところにあるホーボーケンという街にネロとパトラッシュの銅像があるらしいんだけど、面倒くさくなってそっちはヤメにした。帰り道はオランダ領に入ったあたりから往きにも増してすごい吹雪で視界最悪、路面にも完全に雪が積もって、前を走っていたクルマがいなくなったときにはどうしようかと思った。半泣きで走り続けドイツに入ると少しずつコンディションも改善したので胸をなで下ろした。かなり怖かった。
●家には午後5時前に帰り着いた。流れるボールペンを全部出して数えたら136本あった。我ながら感心した。



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