logo 2005.2.20 NHKホール


ツアー最終日、小雨の降る渋谷をNHKホールに向かった。このツアーを見るのも4度目だ。今日ここにいる人たちはたぶん渋谷公会堂にも来たんだろうし、瑞穂や牛久にいた人たちもいるだろうし、僕は行ってないけど横浜や千葉にも行ってるんだろう。そう思うと何だか複雑な気分になった。スモール・サークル・オブ・フレンズ。いつもの顔ぶれ。同窓会とかオフ会とか。まあいいや、ファイナルだし。

結論から先に言えばライブ自体は悪くなかった。そこには何より祝福があった。救いがあった。来てよかったという実感があり、何かを確かめたという手応えがあった。僕はいつも手拍子もしないし拳を振り上げたりもしないけど、この日のライブでは最初から最後まで訳の分からない高揚感とか多幸感のようなものが僕を包んでいた。それはあるいは開演前から会場を包んでいたやみくもな盛り上がりのせいだったのかもしれないし、あるいは僕のごく個人的な事情のせいだったのかもしれないけれど。

佐野もファイナルを意識してかなりハイな状態だったと思う。地団駄を踏んでみせたり得体の知れないダンスをしたり、何より最後の「SOMEDAY」で感極まっていた佐野。エピックを離れ、自らの手でリリースしたアルバムを携えての全国ツアーを無事に終えて、満場のファンから暖かく迎えられたことが佐野にとって何より嬉しく、胸に響いたことは間違いないだろう。

そう、そういうライブだったのだ。

この日の音楽的なハイライトはやはり第二部だっただろう。長いサーキットの最後にたどり着いたこの日の演奏は、「THE SUN」というアルバムの持つ力を実に的確に表現し得ていたと思う。このアルバムには確実に現在進行形の佐野の眼差しがあるし、自分が立っている場所から見える景色を焼きつけながら、自分が今そこにいる意味を確かめようという強い意志がある。昨年の夏にアルバムとして僕たちに届けられた曲たちは、5ヶ月にもわたるツアーを経て試され、鍛え上げられ、揺るぎないひとつの約束として、佐野と僕たちの間に確かな居場所を見つけだしたのだ。

MCも少なく駆け足に過ぎた第一部に比べれば、「THE SUN」の曲を演奏した第二部は疑いなくこの日のライブの中心だった。正直言ってこの第二部だけでもこの日のライブは十分に成立していたと僕は思う。僕はそこにロックを、いや、大げさに言えばロックが僕と寄り添って行く可能性を見た。今年40歳になる僕がロックを聴くことの意味を見た。僕たちが何を頼りに毎日をやりくりして行けばいいのか、僕は一瞬の残像の中にそれを見たような気がしたのだ。

だから本当はアンコールは要らなかったと思う。「SOMEDAY」だって必要なかった。だけどこの日は特別だった。ライブが始まる前から会場を包んでいた熱のようなものが、この日のライブをロック・コンサートとは別のものにしていたと僕は思う。それは幸せなことだったのだろう。「それをみんなで証明しよう」と佐野が言った瞬間に間髪を入れず古田たかしが「SOMEDAY」のイントロのバスドラを鳴らすできすぎた展開もこの日の空気には似合っていた。僕は歌う余裕も踊る余裕もなく、ただそこに立ち尽くして佐野を見ているしかなかった。佐野が感極まっているのだとしたら僕も同じくらい感極まっていた。それくらい圧倒的な瞬間だった。

だけど、それは一面で大きな危険もはらんでいると僕は思う。圧倒的な多幸感の中にいながら、それでも僕はこの日のライブが全体としてとても居心地が悪かったと思う。「ここにイヤなヤツは一人もいないぜ」と佐野は言う。それはロックンロール的なイディオムとしては有効だが、実際にはイヤなヤツが一人もいないライブなんて気持ち悪い。スモール・サークル・オブ・フレンズ。いつもの顔ぶれ。暗黙の了解。もっと雑多で、もっとバラバラで、もっとひとりひとりでいい。もっと勝手で、もっと自由でいい。ライブの楽しみ方にルールなんかないはずなのに、気がつくとみんなが同じように手を振っている。僕はそれにすごく異和感がある。まあいいや、僕はあまのじゃくなんだ。きっとそうだ。

ライブが圧倒的であればあるだけ、それを受け取る僕たちのキャパシティも試される。みんなが同じタイミングで拳を振り上げるようなライブを見ていると、この人たちは本当に自発的に、内発的にこのライブを楽しんでいるのだろうかと思わずにはいられない。そして、そうしたスモール・サークル・オブ・フレンズが、せっかくのライブをどこか閉じたものにしているのだとしたらそれは残念なことだし佐野にとっても僕たち自身にとっても不幸なことだ。ライブそのものがよかっただけに、結局は「SOMEDAY」で盛り上がる、その終わり方がすごくもったいなく思えたし、ファンはやっぱり「THE SUN」より「SOMEDAY」を聴きにきたのかなあと感じずにはいられなかった。曲も演奏もいいのだからもっと手探りでたたきつけるようなライブであってよかったし、その中からこそ僕たちの新しい約束は生まれてくるのではないかと僕は思う。



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