logo THE SUN


THE SUN

2004.7.21発売
DaisyMusic / POCX-9380

PRODUCER :
佐野元春
ENGINEER :
渡辺省二郎(Ex.M-5,11,12,13,14)、
佐藤雅彦(M-5,11,12,13,14)

作詞・作曲 :
佐野元春
●月夜を往け Moonlight
●最後の1ピース
 At the end of the world
●恵みの雨 Gentle Rain
●希望 Hope
●地図のない旅 Trail
●観覧車の夜 Joy and Fear
●恋しいわが家 The Homecoming
●君の魂 大事な魂 Sail on
●明日を生きよう Lost and Found
●レイナ Leyna
●遠い声 Closer
●DIG In our time
●国のための準備 For the country
●太陽 The Sun

デビュー以来在籍したエピックを離れ、自ら設立したデイジーミュージックに移籍しての第一弾リリースであり、前作からほぼ5年ぶりになる通算13枚目のオリジナル・アルバム。エピックから先行リリースした2枚のシングル「君の魂 大事な魂」、「月夜を往け」を収録しているが、ともにシングルとはエディットまたはミックスが異なっている。このアルバムのレコーディングの様子を収録したDVD付属の特別盤が限定リリースされている。

レコーディングは2001年1月からから2004年1月まで、丸3年にわたって行われている。アルバムの名義は「佐野元春and The Hobo King Band」であり、レコーディングも高橋ゲタ男、オルケスタ・デル・ソルによって演奏された「観覧車の夜」を除いて、バンドと共に行われている。レコーディングが長期に渡ったため、「君の魂 大事な魂」、「最後の1ピース」、「レイナ」、「DIG」などはアルバムのリリース前にライブやテレビ番組で演奏されてもいた。

音楽的にはトラフィックやいわゆるジャム・バンドの系譜を継ぐオーソドックスで正統派のロックが中心である。リズム的にはシンコペーションや複雑なブレイクを多用したシャッフル系のファンキーでグルーヴィな曲も多いが、いたずらにテクニックに溺れることなく抑制的で堅実な演奏を聴かせる。シンセなどの電子楽器はほとんど使われず、生音中心のアナログでアコースティックなサウンド・プロダクションとなっている。

アルバム発表直前に佐野が打ち出したスローガンは「Let's rock and roll」であり「Back to the street again」であったが、このアルバムは、語義通りのロックンロールよりはデビュー以来の年月に裏打ちされたストレートなロック表現の深みを聴かせるものとなった。そこにあるのは自由や真実を求めて走り続けた結果たどり着いた場所から見える風景であり、現在の自分の居場所をどう受け止め、解釈し、再定義し、そして最終的にそれを肯定して自分自身の生に結びつけて行くのかというテーマであった。

このアルバムの大きな背景になっているのは、2001年9月の同時多発テロである。このとき佐野は「光」という曲をウェブ上で発表し、テロが我々の精神の危機に直接結びついていることを指摘した。「光」はこのアルバムには収録されていないが、付属のDVDにはレコーディング風景が収録されており、この曲が本作の一部をなすことが明確にされている。そこにあるとア・プリオリに信じているものが一瞬にして崩れ落ちる可能性のある世界で、我々が我々の生を肯定するとはどういうことなのか、それがこのアルバムの最も深い部分にある問題意識に他ならない。

そうした根源的な問いかけを含む本作が、しかし一方の極として「希望」や「遠い声」、「レイナ」のような、日常に寄り添ったミニマルな表現に収束したのは興味深いことである。これは佐野が「冒険」を放棄して小市民的な幸せに回帰することを意味するのではない。そうではなく、それは、我々が「冒険」の結果たどり着いた世界がどんなに奇妙で滑稽なところであっても、あるいは逆にどんなに凡庸でありふれた場所であっても、今ここにいる自分、自分の足が踏みしめている地面の感触を肯定することなしには我々は生きることができないという認識であり、そのような些細な「実感」を手がかりに、自分が今ここに生きているということを確かめたいという強い希求である。

それはアルバム最後のタイトル曲「太陽」につながって行く。「ここにいる力をもっと」と「God」に祈るこの曲では、まさにこの困難な時代を生き抜く力が強く希求されているのだ。ここで露わになっているのはサバイバルへの強い意志であり、そのよりどころを「どこか遠く」ではなく最も自分に近い具体的な物事に見出そうとする「継続」へのトライアルである。

「フルーツ」以降の佐野の音楽を、個人の成熟をどうロック表現の中に同定して行くのかという課題への取り組みだと解するならば、このアルバムはその道のりの中にあって燦然と輝くマイルストーンたり得る傑作だと言うことができる。



Copyright Reserved
2004 Silverboy & Co.
e-Mail address : silverboy@silverboy.com