logo live on 2006.4.2 at 東京国際フォーラム


僕がいちばん好きな「Heart Beat」はビデオ「Truth」に収録されたライブである。まだ若々しい佐野の、少し鼻にかかったボーカル、ブルース・ハープ、そして、ハイウェイを走って行くクルマのフロント・グラス越しにみた映像。街灯がフッと消えるその一瞬に、この曲で描かれる(僕たちの日常では到底あり得ないような)気取ったシーンと、頼りなげに背伸びした僕たちの感情がフックする。僕たちはリアルということの意味を考える。これは何だろう、僕はどうしてこんなにせつない気持ちになるのだろう、と。

高校生の頃、僕はよくこの曲の歌詞の一部を教室の机に書いていた。「何もかもインチキに見えちゃ寂しいぜBaby」とか何とか。僕の周りにはシボレーのピックアップ・トラックもなければ朝の4時半に一緒に眠るようなガール・フレンドもいなかったけれど、何かそこにとても大事な、透き通るような気持ちの結晶のようなものがあるのは分かった。そんな話ができるガール・フレンドができればいい、とずっと思っていた。そんな彼女と明け方に目を覚ましてもぐもぐと寝言をつぶやくような恋がしたいと思った。

それから長い時間が過ぎた。小さなカサノバも、街のナイチンゲールも大人になった。もちろん僕も大人になった。それでもこの曲を聴くたびに、かつて僕が目をこらすようにして探した透明な気持ちの結晶がまだそこにあるのを僕はいつも確かめる。

今回のツアーで佐野はこの曲をレゲエにアレンジして歌った。「僕の鼓動が聞こえないの?」と歌ってはいたずらっぽく指でハートのマークを作って見せた。おそらくは娘に近い年頃のコーラス・ガールと一緒に。この曲だけが持つ、せつなくてリアルな気持ちの揺れは確かにそこにあった。ハッピーなレゲエにアレンジされることでそこで歌われるある種の感情はむしろより純粋に抽出されることになったかもしれない。今、僕たちにもう逆境はいらない、ただ、幸せな今の瞬間をだれかと分け合えればいい、とでもいったような。姿さえ見えない架空の敵に無理矢理立ち向かっていたような悲壮な顔はもうやめて。だって、「僕の鼓動が聞こえないの?」

80年代の曲を中心に演奏した今回のツアーが、意外と言っていいほど前向きなトーンで貫かれていたのは、それらの曲がそれぞれの表情を持ちながら、佐野の現在、僕たちの現在にきちんとつながっていたからだ。今の僕たちの感情をきちんとヒットしたからだ。そしてレコーディング・メンバーをゲストに迎え、最終日のアンコールにようやく演奏された「星の下 路の上」。初めてライブで聴いたこの曲も素晴らしかった。深沼元昭とのリフレインのかけ合いを聴きながら、80年代の曲が今日までつながっていることを実感したのは僕だけではないだろう。シンプルな曲だけど、ギターをかき鳴らしながら「ヘヘイヘイ」と歌う佐野は単純にカッコよかったと思う。渋めになりがちなHKBの演奏の中にあって、このメンバーで演奏した「星の下 路の上」の清新さは嬉しかった。

たぶんこの日のライブについて書くべきことはもっとあるのだろう。ツアーの総括をしなければならないのだろう。だけど、そんなことはだれかがどこかでやってくれるはずだ。ハッピーなレゲエの「Heart Beat」、初めてライブで聴いた「星の下 路の上」。「SOMEDAY」を歌う前のMCで、「僕はこの曲が好きです」と佐野は言った。何だかそれだけで、僕にはもう十分だった。幸せなライブだった。


カッコイイ佐野 (Gen.N)  2006.4.9

いいライブでした。。。開演前から“今夜は良いコンサートになる”って予感はしていたし、観客が無意識にそう感じることで、会場全体が良いベクトルに向かう、という良いライブの典型だったような。
オープニングの「有楽町で逢いましょう」「夏のピースハウスにて」のBGMに、一瞬、深い意味を考えそうになったが、HKBの演奏が始まった瞬間、ナチュラルハイ状態に。予定していた大宮・横浜が観れなかっただけに、グイグイひき込まれて。「ハートビート」「ストレンジデイズ」「ロックンロールナイト」「ワイルドハーツ」そして「NEW AGE」と、“カッコイイ”佐野を堪能した。・・・ライブ翌日から数日は余韻を引きずった。久しぶりかな、この感じは。あと10年後、俺もあんなイカシタ50オヤジになれるのかな。

「星の下 路の上」 (Silverboy)  2006.4.9

この曲に新たな可能性を感じました。最近は安定感が出てきたけど、本当のところ、もっと危なっかしい佐野元春が好きです。イカした50オヤジになる前に、僕もイカした40オヤジでいられるようがんばります。いや、「チョイ悪」とかそんなんじゃなくて。



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