live on 2006.3.12 at 横浜BLITZ バースデイ・ライブのこの日、「星の上 路の下」ツアーのセットリストから演奏された何曲かと合わせて披露されたのは、佐野がホーボー・キング・バンドのメンバーとウッドストックで制作したアルバム「THE BARN」からの曲だった。「風の手のひらの上」、「ヤング・フォーエバー」、そして「ドライブ」。「THE BARN」がバンドのメンバーの音楽的な「交差点」であることを考えれば、ホーム・パーティのようなこの日のライブで、このアルバムからの曲が演奏されたことは自然だったのだろうと思う。 そしてもう一曲、この日のために特に演奏された曲があった。「君をさがしている」。1981年のセカンド・アルバム、「Heart Beat」からの曲だ。当時、佐野はこの曲について自ら、「バーズみたいなフォークロックをやりたかったのだが乾燥し過ぎた。個人的に好きな曲だけど録音が違う」と、レコーディングに対する違和感を隠さなかった。佐野はこの曲にいちばんぴったりくるアレンジを探すかのように、この曲を何度もステージで演奏したのだった。 この曲がようやく落ち着き場所を見つけたのはごく最近のことだ。2000年にリリースされたコンピレーション「The 20th Anniversary Edition」に、佐野は「H.K.B. Session」と題されたこの曲のリテイク・バージョンを収録している。オリジナルの発表から20年近くを経て、佐野は不本意だったこの曲のアレンジ、レコーディングに復讐(リベンジ)を果たしたのだ。 新しくレコーディングし直されたこの曲は、これこそまさにフォークロックというべき仕上がりになっている。キラキラと輝くような艶のあるアルペジオのリフ、そこに重層的に積み上げられて行くギターの音色、そして抑揚を押し殺したように歌う佐野のボーカル。まさにバーズ・フィーチャリング・ボブ・ディランだ。このバージョンが生まれるには確かにHKBの高いプレイヤビリティが必要だった。しかしこのアレンジがフォークロックという音楽の本質を捉えているのはただ単に彼らの演奏が巧みだからではない。それは彼らが共通して強く影響を受け、深い愛情を抱いているのが70年代アメリカの音楽だからであり、だからこそ彼らはこの曲、この演奏に魔法の粉を振りかけることができたのだ。 この夜、この曲はもちろんこのフォークロック・アレンジで演奏された。キーボードを離れギターを抱えたKYONが特徴的なアルペジオを奏で始める。 「朝が来るまで君をさがしている」 そう、佐野はまだ探し続けている。僕もまた探し続けている。騒々しい街を傍らに、僕たちは「君」を探し続けているのだ。やみくもに「真実」を求めた高校生の頃から、大人になることの痛み、きしみに震えた20代を過ぎ、ようやく自分の足で立つことの意味が見え始めてきた今まで。そして、佐野はこの曲を、彼自身がこの曲に最も似つかわしいと思うフォークロックに乗せて、自分の誕生日パーティで披露して見せた。「朝が来るまで君をさがしている」。それはタフなストーリーだ。 この日のライブはファンクラブ・メンバーを対象にしたプライベートなセッションだった。ライブ後のトーク・イベントが物語るように、それは厳しく何かを問うというようなパフォーマンスではなく、むしろ一緒に何かを確認するかのような演奏だった。その中でこの曲が演奏されたことは、この曲が、佐野にとって、バンドにとって重要なものであるということを示しているばかりでなく、佐野と僕たちとの間に、この曲を媒介として確認されるべきものがまだそこにあるということに他ならないだろう。 僕がこの日のイベントを意外に素直に楽しめたのは、佐野がこうやって「つながって行く意志」を示してくれたからかもしれない。強い風に吹かれて横浜の街を歩きながら、僕はそう思った。「君をさがしている」。僕の大好きな曲のひとつだ。
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