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このアルバムについては既にいろんな人がいろんなことを書いていることだろうと思う。僕もこのアルバムについて、あるいは「SOMEDAY」や「Rock & Roll Night」といった曲について、何度も僕自身の思いをこのサイトの内外に書き散らかしてきた。今さらそれらに付け加えるようなことなどもう何も書けないような気もするけれど、でも一方ではいくら書いてもこのアルバムのすべてを語り尽くすことなどできないように思うのもまた確かなことなのだ。

最初に認めてしまわなければならないのは、「SOMEDAY」は佐野元春がこれまでに発表した作品の中でも最も優れたアルバムだということだ。そして佐野はおそらくこれからも「SOMEDAY」を超えるアルバムを発表することはできないだろうということだ。

もちろん僕は、佐野が、このアルバム以降続けてきた音楽活動を否定するつもりなんかない。むしろ僕は、佐野元春というアーティストの音楽活動の本質は、渡米以降、つまりアルバム「VISITORS」以降の試行錯誤、成功と失敗、歓喜と落胆、挑戦と敗退の繰り返しの中にこそあるとすら思っている。「SOMEDAY」というアルバムそのものよりは、「その後」をどう闘って来たかということによって佐野元春というアーティストは評価されるべきだと。

だが、それは同時に、このアルバムがその後の佐野の音楽を考えるときの絶対的なスタンダードとなっていることをも意味している。確かに佐野は「SOMEDAY」以後も優れたアルバムを発表し続けてきた。「VISITORS」、「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」、「フルーツ」、「THE BARN」、そして「THE SUN」。これらのアルバムはいずれも、純粋なロック表現としての達成という意味では「SOMEDAY」を凌駕していると言っていい。しかし、それにもかかわらず、僕は、佐野が「SOMEDAY」を超えるアルバムを発表することはないだろうと思う。

なぜなら、「SOMEDAY」というアルバムには、佐野の音楽体験、佐野が音楽から受けた感動や憧れや驚き、佐野自身の10代から20代というかけがえのない時間そのものが封印されているからだ。

だれにとっても10代というのは特別な時間だ。社会的な責任を負う前の、だからこそ許される無垢で潔癖で先鋭的でまっすぐな視線。その一方で自分でもどうしていいか分からないような感情の高ぶり、混乱、苛立ち、衝動。それは人生の限られた一時期だけに与えられる特権的な多感さであり、いったんその時が過ぎ去ればもうどのようにしても取り戻すことのできない永遠の憧れのような一瞬の夏なのだ。

そのような時期に経験したことを人は一生かかっても乗り越えることはできない。僕たちの生の重要な一部分はその時期に決定されてしまっている。

だが、残酷なことに僕たちにはその後にも長い時間が残されている。僕たちは消え去ってしまった輝きの記憶や残像を頼りに残りの時間を生きる他ない。そして、僕たちの生の本当の価値は、僕たちがどのような10代を過ごしたかということよりは、むしろ、10代の幸福な夢のすべてを持ち続ける訳に行かないと気づいたときに、その中から何を捨て、何を選び、何をよりどころにしてその後の長い時間を生きるのかということの中にこそあるのだと僕は思う。

「SOMEDAY」というアルバムを発表したとき、佐野は27歳だった。ここには佐野の幸福な10代の記憶と、そこから踏み出してその先へ歩き始めようとする佐野の、最初の苦々しい選択や覚悟、畏れや矜持や強がりや負けん気が混然となって封印されている。だからこそこのアルバムは佐野のその後のすべての作品のスタンダードなのであり、決して超えられることのない特別な意味を持った作品なのだ。

佐野元春というアーティストのことを考えるとき、僕は彼の作品と寄り添ってきた自分の生のことを考えない訳に行かない。僕自身の10代とその時夢見たもの、その中から捨て去ったものと選び取ったもの、そのそれぞれには、僕が聴いてきた佐野のひとつひとつの作品が分かち難く結びついている。そして、僕にとっても、この「SOMEDAY」はすべての出発点となったアルバムであり、僕自身の今を測るためのスタンダードであり続けているのだ。


Someday (田中靖久)  2006.3.29

「Somedayを凌駕するアルバムを発表することはできないだろう」という見解に同意します。理由は、「自分に納得のゆく音楽表現をしたい」「商業的に成功したい」という2つの欲求が、前2作を経てSomedayで初めて調和したこと、そして以降、その調和がやや失われたことによるからではないかと思います。Visitors、ナポレオンフィッシュ、フルーツ、Barnには商業的な成功より音楽表現への衝動が強く感じられますし、一方Stones&EggやSunには、その逆の意志が感じられます。

One and Only (Silverboy)  2006.4.9

だれにとっても10代の後半から20代の前半の頃に考えたこと、経験したことは特別だと思います。「自分」の原型は結局その頃にできあがってしまったんじゃないかと。佐野にとって「SOMEDAY」はそういうアルバムなのかもしれません。



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