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EP「星の下 路の下」はヘヴィなブルース・ロックのギターリフから始まる。「ヒナギク月に照らされて」。「DaisyMoon」のサブタイトルを持つこの曲は、佐野がエピックを離れて自ら設立したレーベル「DaisyMusic」のテーマソングともいえる。

一聴した印象は、「THE SUN」のアウト・テイクである「タンポポを摘んで」にも似ている。だが、「タンポポ」の方がよりジャム・セッションに近いスポンテイニアスでルーズなジャズ・ブルースであるのに対して、「ヒナギク」の方は明確なリズムと骨格を持った三連シャッフルのブルース・ロックである。

かつて佐野は「川は流れすべては繰り返す」と歌ったことがある。「月と専制君主」という曲だった。「街の上、マシュマロの月浮かび」「夜が美しい」と。今、佐野は「川辺に沿ってずっと歩いてゆく」と歌う。そして「月がとっても綺麗さ」。月の光の下、ひそやかに流れる川。それは佐野の原風景のひとつなのだろうか。

ここで佐野が歌っているのはとても微妙な感情だ。「悲しいことばかりじゃない」「耐えきれないってわけでもない」。それはいろいろなものを譲り渡し、諦め、捨て去ってきた後の苦々しい現実への眼差しに他ならない。それでも悲しいことばかりじゃない、耐えきれないって訳でもない、何とかやって行けるし僕はまだ笑うこともできる、と。

肯定することを学び、赦すことを覚え、賢い大人になったような顔をして、毎日を何とかやり過ごしている僕たちが、しかしその結果手にしたものはいったい何だったのだろうか。それはきっと些細なものだ。でもとても大切なものだ。何しろ僕たちに残されたものはもうそれしかないのだから。

そのようにして僕たちがよりどころにしているもののことを佐野は歌っている。だれにもそれぞれそのようなささやかなよりどころがなければならない。何だっていい、「潰されないように」生き続けるために僕たちが大切にしているささやかな何か。それを手に「川辺に沿ってずっと」歩いて行こうと佐野は歌うのだ。

そのとき初めて僕たちは月の美しさに気づくのかもしれない。だれもが眠りにつく夜の間、僕たちにそっとささやかな光を投げかけ続ける月に、佐野は優しげな、しかしリアルな夢を見ている。その手には、たぶん、ヒナギクを抱えながら。



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