on the road, stars above 佐野元春のようにキャリアの長いアーティストにとって、新しい曲を書き続け、歌い続け、それを発表し続けるための動機、モチベーションはいったいどこにあるのだろうか。創作意欲、とひとことで言うのは簡単だが、常に新しい表現を模索し、形作り、それをリスナーにたたきつけて行くのは容易な作業ではないはずだ。 ある種のアーティストは過去の作品の輪郭をなぞるだけの単純な縮小再生産に陥るだろう。また別のアーティストは何の必然性もない凡庸な作品を垂れ流すだけの惰性に囚われるだろう。そうして顔なじみの客だけが集う居心地のいいスナックだか飲み屋のように、生暖かく弛緩した予定調和の中に自閉して行くだろう。そんなアーティストを僕たちはたくさん知っている。 今回、佐野が僕たちにたたきつけたのはシンプルでレアなロックンロールだった。ナイフで切れば血が滴るような、生身のビートだった。深沼元昭(g)、高桑圭(b)、小松シゲル(dr)といった一世代下のメンバーをバックに迎え、佐野は、自身の最新型のパッションを、2005年という時代に対する意識を、身も蓋もないロックンロールに乗せて僕たちに示したのだ。いつものように、そして同時に、今までやったことのないやり方で。 佐野は歌い続ける。表現を、意識を、スタイルを更新し続ける。そしてそれを僕たちにたたきつける。なぜならそれこそがアーティストの宿命だから。立ち止まり、過去の作品に満足したところでそのアーティストは死んでしまうから。それを佐野は、断固拒否するから。 それは過酷なラリーだ。それは分の悪いファイトだ。だけど佐野はそれをやめることができない。まるで僕たちが生きるのをやめることができないように。たどり着くところがどんな場所であろうと、佐野は歌い続け、僕たちは生き続ける。更新され続ける表現の深層で、貫かれる動機はいつもひとつだし、それを僕たちは信頼している。そう、オレハクタバリタクナイ。 この力強いロックンロールを聴こう。繰り返し。大きな音で。近所から苦情がきても構わない。佐野がまだ闘い続けていることを確かめるために。そして僕たちがまだ、ここで呼吸していることを確かめるために。星の下で、路の上で。
2005-2006 Silverboy & Co. e-Mail address : silverboy@silverboy.com |