logo 少子化の本質


政治家の失言というものにはすっかり慣れっこになっていたつもりでしたが、かの厚生労働大臣の「女性は産む機械、装置」発言は久し振りにセンセーショナルでした。野党はもちろん、与党内からも批判がでるのは当たり前で、しかも少子化問題を担当していて、そうでなくても少子化対策には一番密接な大臣です。そのような認識では到底有効な問題解決などできるはずがありません。
また後日弁明の際、「一般的な認識ではない。あくまで人口推計に於ける話の中でのことで、機械に置き換えた方がわかりやすいと思った」とおっしゃていたようですが、変に例えたりせず、普通に「出産をできる女性の数が決まっている」と言えば十分理解できる話です。もうあまりゴチャゴチャ言い訳はせずに、ただひたすら謝るしかないのではと、少し滑稽さを感じたりもしました。

ただ正直なところ、あのような女性蔑視あるいは少子化問題に対して意識が低いのは、何も失言をした大臣だけではないのではないでしょうか。ある一定以上の年齢の男性議員あるいは、一般の社会でも似たような考えを持っている男性が少ないとはどうしても思えません。
また、今回の発言内容を見ると、私は「機械」発言よりもその後の発言の方がよほど重大で、問題があると思います。曰く「(子供を産める女性の)数は決まっているのだから、ひとりひとりに頑張ってもらうしかない」とのことですが、果たしてそうなのでしょうか。

どうもエライ方々や頭のカタイ方々は、少子化の原因は女性が社会参加し、働き続けたいのに出産や育児のために仕事を続けられないから、つまり女性が「出産か仕事か」と、二者択一をした結果だとしか捉えてないように思えてなりません。しかし、少子化の原因はそんな単純なものではないはずです。
例えば1990年代なら若い男性が安定した収入を得られなくなったという経済の変化によって、家庭を持てる若者が減ったと言われています。また時代を問わず、教育費にお金がかかり過ぎるため、2人目、3人目を生みたくても、あるいは積極的に働きたくなくても家計を支えるために、主婦が働かなければいけないというケースも多くあるはずで、それが益々増えている気もします。

他にも原因は多々ありますが、何より最近一番問題になっているのは、産科と小児科不足です。「出産難民」などという言葉が生まれるほど、都会・地方を問わず今は産科が足りないと聞きます。つまりは、女性が産みたいと思っても産めない事情が複数存在しているというわけです。
特に産科不足は大きな問題であると共に、すぐにでも政治主導で対策に手をつけることができる問題ではないでしょうか。それを放置しておいて、産まない女性が悪いと(取られかねないことを)言われても、そのような発言をされては余計「自分たちは子供を産むためだけに生きているわけではない」と思うでしょう。

さらにこの産科・小児科不足の問題を、先の大臣の失言とリンクさせて考えてみて下さい。仮にこれからの1、2年で出生率が今より1割でも2割でもアップしたら、現状のままでは産科・小児科不足に拍車がかかるだけではないでしょうか。
また、産科でも小児科でも時折気の毒な医療事故などが起きていますが、それも無理な体制で医療に従事している人たちだけを責める気にはなれません。女性に産めよ殖やせよとプレッシャーをかける前に、産科医や小児科医も女性や子供も安心できる医療体制を作る必要があり、急務だと言えます。

そして、少子化問題そのものとは別に、今回の発言はもうひとつ大きな問題を内包していると思います。厚生労働大臣という要職にある人が、あるいは政治家がこのように「口を滑らす」事自体、政治家としてあまりにも危機管理意識が低いと言わざるを得ません。なぜこのような発言をするその時に、「使うべき表現ではない」という判断ができなかったのか、そのこと自体、大臣という重責を果たせる人材ではないと思えてなりません。自分のことすらこの程度の危機管理意識だとなると、やはり一国の大臣としての仕事は任せられないと思ってしまいます。
物事には謝れば済むというわけにはいかない問題があります。大臣本人にもそして、任 命した総理大臣にも、そこのところを熟考してほしいものです。



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