logo 「牛乳を飲もう」


ある朝、私はいつものように北海道新聞を読んでいました。すると「牛は蛇口じゃない」という見出しが目に飛び込んで来ました。

記事の内容は、最近乳牛から取れる生乳の生産量が増加している反面、消費の伸び悩みなどに加え、春休みのために学校給食がない時期が重なって、せっかく搾乳された生乳を大量廃棄せざるを得ないというものでした。
「要らないなら搾乳しなければいい」という声も聞こえてきそうなこのニュース、しかし毎日搾乳しなければ牛が病気になってしまうため、出荷の当てがなくて廃棄処分を覚悟の上で、牧場側は搾乳をし続けているというのです。
全国的にも報道されたので、このニュースをご存知の方も多いかと思います。
私個人としては、実を言うと乳製品は好きなのですが、牛乳そのものはあまり好きではないため、普段はあまり買わずにいました。しかし産地に住む人間ですから、このニュースを目にして以降は、必ず牛乳を買い置きするようにしています。

それにしても長く続く健康志向の風潮の現代にあって、少し前までは健康に寄与する食品の代表格であった牛乳の消費が右肩下がりということは、少々不思議な気もします。しかし、どうやらその健康志向こそが牛乳の消費低迷の一因だというのです。人間に必要な栄養素のうち、ビタミンCと鉄分を除く栄養素が含まれているまさに完全食品である牛乳が、その栄養価の高さゆえ、同時に脂肪も豊富だというイメージが一般消費者に定着してしまったというのが、牛乳の不人気の理由だとニュースでは解説していました。
では本当に牛乳を飲めば脂肪過多になるのかといえば、決してそうではないようです。
一部の生活習慣病を患っている人を除けば、健康維持のためにはある程度の脂肪やコレステロールも摂取しなければなりません。もちろん摂り過ぎはいけませんが、その逆もまた真なりで、健康的な食生活というものは「何事も過ぎたるは及ばざるがごとし」なのです。

ただ、だからと言って今回の問題は、牛乳の栄養価を誤解している消費者にだけ責任があるとは思えません。
最近、厚生労働省の認可による「特定保健用食品」が様々な分野で売り上げを伸ばしています。そしてそれらの多くは、広告でその「効用」を効果的に説明し、販売促進につなげているように見えます。
牛乳はと言えば、残念ながら道外の事情は知りませんが、少なくとも北海道では私が子供の頃から「牛乳を飲もう」というキャンペーンCMが主にテレビで展開されています。そしてその中心は、道内で牛乳の流通のほとんどを手がけているホクレンという農協団体です。
しかしながらこのCM、昔も今もただ「牛乳を飲もう」と連呼するようなタイプのCMで、20年前ならいざ知らず、今時そんなCMを見たからと言って牛乳が飲みたくなるような作りにはなっていません。せっかく大金をはたいて広告宣伝をするのなら、もう少し費用対効果を考えてほしいと、今回のニュースを見た時に思いました。
牛乳の栄養価がどれだけ高く、どのくらい飲む分には生活習慣病予防やダイエットの妨げにならないかという「情報」をしっかりとCMに盛り込み、同時に普段取りにくい栄養を簡単に摂取できるというアピールができれば、十分消費者の意識を変えることができるのではないでしょうか。

それから、乳製品の代表格であるチーズは、日本国内はもとより中国の食生活の西洋化に伴い需要が増えていて、チーズ全体の価格は上がる傾向にあると聞いたことがあります。
日本国内でも、チーズの価格はまだまだ高い方だと思います。ホクレンでも、既にチーズ工場を新設する計画もあるようですが、今後中国などに輸出することも視野に入れてチーズの増産を図り、国内のチーズの価格を下げる努力をしてほしいと思います。

こうして見てくると、ただ牛乳が売れなくて酪農家が可哀想だという論調の報道にも、もう少し工夫があってもよさそうです。そして何より、ホクレンなどの農協団体には効果的な広告と、ただ「飲んで下さい」と牛乳を配るだけの旧態依然とした販売促進方法を改善し、酪農家のためだけでなく、一般消費者の健康増進に寄与するためにも牛乳の消費拡大を目指してほしいと思います。



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