マスコミの暴走
例年、クリスマスの頃に行われている全日本フィギュア選手権ですが、今年は信じられないほどの注目を集めて行われました。またその結果、トリノオリンピックの代表選手も決定されました。
そしてここまで、浅田真央選手が年齢制限でトリノオリンピックに出場できないと騒いでいたマスコミも、今回の結果を受けてようやく落ち着くだろうと思っていたのですが、一部では代表選考に疑問を呈しているようです。
しかし、その代表選考への疑問も、そして今までの真央フィーバーと言える騒ぎも、フィギュアスケートファンとしては首を傾げるだけで、マスコミに対する不快感すら覚えたというのが本音です。
まず代表選考についてです。
私が目にしたある新聞記事では、選考のためのポイント制度がわかりずらいとありましたが、個人的にはわかりやすく尚且つ公正なものだという印象を持っていました。今回のように日本国内のレベルが高いのに出場枠が限られている場合は、どうしても見る側の主観が含まれてしまい、絶対的に公正にすることは無理だと思います。そういう意味では、今回の制度は可能な限り公正さと透明度を目指した、スケート連盟の努力が窺えます。
また、あくまでも個人的な意見ではありますが、実際に選考された3選手については、ベストメンバーだったと思います。オリンピックを含む国際経験豊かなベテラン2人と、国内の知名度が高く、今後の日本フィギュア界を背負っていく若手という組み合わせは、トリノでメダルを狙うためにも、今後のフィギュア界を考えた上でも、バランスのいい組み合わせと言えると思うからです。
それから大騒ぎになった浅田真央選手の件ですが、私は当初から一貫してトリノ出場はあり得ないと思っていました。もちろん「ルールはルール」というのが一番の理由ですが、フィギュア界の事情を考えれば当然のことだったからです。そしてマスコミの騒ぎようには、その無責任さに対して、ファンとして少なからず憤りを感じました。
今回の件に限らずマスコミというものは、大衆の注目を集められそうだとなると途端に食いつきますが、時期が過ぎれば、あるいは問題が起こればあっさりと見捨てるものです。もちろん、普段注目を浴びないものにマスコミが目を向けることで、世間の注意を引くというのはマスコミの重要な役割なので、そうした行為自体が絶対に悪いというわけではありません。ただ、あまりにもその落差があり過ぎることと、マスコミの報道内容があまりにも付け焼刃的で、報道される側のためにならないということがしばしばあるのではないでしょうか。
今回の真央フィーバーはその代表例ですし、さらに遡れば安藤美姫選手をアイドルに仕立てたことも同様と言えるでしょう。今シーズンの安藤選手の不調の一因はマスコミにあると思えるからです。
挙句の果てに、10年以上の長期計画を立てて日本フィギュア界をここまでにしてきた連盟の苦労を踏みにじるようにして、「ルールを捻じ曲げてまで浅田真央をトリノに出せ」というのはまさに他人の家に土足で踏み込むような下品で浅はかな行為にしか見えませんでした。ましてオリンピック開催2ヶ月前に、ルール改正をしてまで浅田選手を出場させろというのは、無理難題であると共に、あまりにも時間が足りなさ過ぎたのです。
というのも、浅田真央という「天才少女」がいるということは、フィギュア界では数年前から知られていたことで、同時に彼女がトリノに年齢制限で出られないことも2年ほど前から「残念がられていた事実」だったのです。私も一ファンとしてできることなら浅田選手にトリノに出てほしいという思いはありました。しかし、そのためにマスコミを中心として騒ぎ立てるなら、せめて昨シーズンのジュニアの世界チャンピオンになってすぐにするべきだったと思います。しかし今シーズンに入ってからというのは、あまりにも遅過ぎですし、それでは当の浅田選手にも、一緒に 代表争いをする選手にも気の毒というものです。
そしてもうひとつ、普段フィギュアをあまり見ない方々に知っていただきたいことがあります。それは今年行われたグランプリシリーズの位置づけが、オリンピックシーズン故に例年とは違うということです。
浅田選手をトリノに出せという要望の、最大の根拠はグランプリファイナルで優勝し「世界一」になったからだと思います。しかもトリノで一番金メダルに近いと言われているロシアのスルツカヤを抑えてとなれば、浅田選手が世界一になったのだと思われるのも無理のないことではあります。
しかし、オリンピックシーズンは有力選手はオリンピックに照準を合わせ、従って その他の大会には必ずしも執着しないというのが常です。またオリンピックシーズンに限ってグランプリファイナルや世界選手権を日本で行うことが多いことに対して、フィギュアファンから不満が出ているという事実もあります。つまりヨーロッパやアメリカの選手にとって、時差の大きい日本での大会は無駄が多く、オリンピックシーズンはそれを重視しないという傾向があるのは残念ながら事実のようです。
今回のグランプリファイナルも、明らかにスルツカヤは調整不足でしたし、それを隠そうともしませんでした。また本来であればファイナルに出てもおかしくない選手が出場していないことなどからすれば、浅田選手の「世界一」は暫定と言わざるを得ません。しかも、浅田選手はオリンピックに出ないからこそプレッシャーを感じることなくのびのびと滑れた部分はあったはずです。
しかしルールを曲げるようなことをすれば、当然何がしかの軋轢が生じるでしょうし、そうなれば結果がよくても悪くても、今後の浅田選手に、特に精神面で悪影響を及ぼさないという保証はどこにもないと思うと、私は無理を通してまで浅田選手にオリンピックに出てほしいとは、とても思えませんでした。
しかし浅田真央という選手が、不世出の天才スケーターであることは間違いないと
思います。だからこそ、たった1回のオリンピック出場に惑わされず、次のバンクーバー、更にはその次のオリンピックに出てフィギュアの歴史に名前を刻んでほしいと思います。そして何より、彼女には息の長い選手になることを強く期待しています。
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