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東京高裁「他人の権利侵害」 (北海道新聞 2005年12月9日)

自衛隊のイラク派遣に反対するビラを配るため自衛隊宿舎に立ち入ったとして、住居侵入罪に問われた市民団体メンバーが控訴審判決で有罪とされた。一審では『住居侵入罪に当たる』としながらも『憲法が保障した政治的表現活動で、放置された商業的宣伝ビラより優先される。動機は正当で、被害の程度も極めて軽く、違法性はない』として、無罪を言い渡された。しかし高裁では『立ち入り禁止の掲示板を表示したり、居住者による抗議を受けてもさらに同じ行為を繰り返すなどした』ことから『居住者が受けた不快感は極めて軽微とは言えない。表現の自由が尊重されるべきであっても、そのために他人の権利を侵害してよいことにはならない』と一審の判断を覆した上で、メンバー3名に罰金を言い渡した。


私はこの記事を読んで、どうにも腑に落ちませんでした。確かに自分の住む住宅に、本人が不快と感じるようなチラシが配られることは、誰も喜びはしないでしょう。しかしそれを言ってしまえば、一般の商業的宣伝用のチラシはもちろん、訪問販売や様々な勧誘の電話など、他にも不快に感じる宣伝行為は枚挙に暇がありません。ところがそうしたものは多少不快な思いをしても、誰も裁判を起こしたり、告訴までしようなどと思う人はいないはずです。
また今の日本では、自衛隊の存在や海外への派遣について、決して国民の大多数が賛成している状態だとは言えないはずで、特に平和維持という観点からこうした運動をする人がいるのは、民主主義国家として当然至極で、国が健全な証拠だという見方ができるはずです。
確かに彼らが、住民が抗議などをしても執拗にビラ配りをしたことに対しては、反省すべき点があったことは事実なのかもしれません。だからと言って罰金刑とは言え、裁判で有罪判決を受けるほど重大な罪を犯したと言えるのでしょうか。

このニュースと併せて最近もうひとつ気になっていたのが、刑事事件被害者の氏名の公表を警察が判断する方向で、ある種の報道規制を敷こうとしている動きです。確かに何か事件があると、マスコミが被害者に対して無神経な取材や報道をすることが時々見受けられます。しかしだからと言って、警察が被害者の氏名を公表するかどうか判断するというのは、あらゆる面で自由主義国家として危うさを感じます。

しかしこうした表現の自由を束縛しかねない動きがある一方、敢えて規制強化の必要性を感じるのも、現代社会が抱えている大きな問題となっています。
例えば、最近多発している凶悪犯罪に関しても、防犯カメラの設置や刑の重罰化などに関する議論があります。逆に本来はモラルや道徳というレベルで留めるべき、多くの行動にも規制の必要性が散見されたりもします。

先日見たニュースで、どこかの町でポイ捨てや自転車の路上駐輪、歩きたばこなどを禁止するという、本来はモラルで解決すべきことを、事細かに規定した迷惑禁止条例を制定しようとしているということで、街頭インタビューを行っていました。ある程度年齢の高い人たちの多くは、「仕方がない」「規制するべき」という意見が多かったのですが、ある若い男性はその内容を見て「自由を奪われる気がする」と言っていて、私は大変驚きました。その内容のほとんどは、少なくとも私の常識感覚では「しないのが当たり前」というものばかりだったからです。
そして何より、「自由というものは、法律や道徳・モラルを遵守することはもちろん、他人に迷惑をかけない、あるいは場合によっては他人に不快な思いをさせないということが原則の上に許されるもの」であるはずで、そのインタビューを受けた男性のみならず、自由の意味を履き違えている人が多いのではないかという思いを改めて強くしました。 そしてこういう人たちがいるからこそ、本来は必要のない迷惑防止条例などというものが必要になってくるのではないでしょうか。

こうして見てくると、凶悪犯罪にしろ、犯罪にならない程度の迷惑行為にしろ、規制を強化しなければならない人たちが増えることは、それを口実に何かしら自分達の有利なように計らいたい権力者達の、結局は手助けをしているようなもので、最終的に本当の自由を奪われることになってから後悔しても遅いはずです。冒頭の市民運動家の人たちの行為も、恐らく多少の行き過ぎはあったのでしょう。マスコミの報道の仕方も、しばしば過熱し過ぎるのも事実です。そしてつまらないマナー違反を繰り返せば、結果的にそのツケは自分達に回って来るのです。自由には責任が、権利には義務が伴うもので、それぞれが表裏一体のものとも言えます。
これらのことを踏まえた上で、私達が今、本当に守らなければならないものは何なのか、しっかり考えなければいけない時期だと思います。


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