最果ての地にて
先日、私は友人を誘ってドライブに行ってきました。
朝9時頃に釧路を出発し、私達は一路東へ向かいました。
出発から1時間ほど走り厚岸という町で国道を離れ、海沿いの道を通りました。少し山道を走った後、景色が開けると右手に太平洋、左手には霧多布湿原が見えてきて、展望台で一度車を降りることにしました。
その日は雲ひとつない晴天だったので、海も湿原も陽に映えていて、とても美しい景色でした。
一休みした後は、再び国道に出て更に東へと車を走らせました。40〜50分ほど走ったでしょうか。根室に入るとすぐに風蓮湖があり、道の駅があったのでそこで再び休憩を取ることにしました。
風蓮湖はつい先頃ラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)に登録され、道の駅にも登録を祝う垂れ幕などがありました。道の駅の中に入ると、湖の方向に大きな窓があり、寒い時でも暖かい室内から外の眺めを十分に楽しめるようになっていました。ちょうど白鳥や丹頂鶴がいて、明るい湖面の青と鳥の白のコントラストが美しく、道東らしい眺めでした。
道の駅を出て少し走ると、左手に海が見えてきました。根室の市街地に入るまでは、しばらくの間は海が見える道を走ることになります。そして水平線には大きな山がいくつか見えたのですが、それは国後島の山々です。
実は、車でわずか2時間ほどの所に住んでいながら、私が根室に行ったのは小学生の時以来でした。
大人になって行ってみて驚いたのは、国後島が思っていた以上に近いということでした。
その後市内の中心部で、根室名物のエスカロップを食べることにしました。これはピラフの上にとんかつを載せ、その上からデミグラスソースをかけた物です。結局友人がエスカロップを食べることにしたので、私はオリエンタルライス(ドライカレーの上に牛肉のソテーを載せ、やはりデミグラスソースをかけた物)を食べることにしました。どちらも見た目よりはこってりとし過ぎていず、機会があったらまた食べてみたいと思いました。
食事を終えると、私達は納沙布岬へと車を走らせました。
市街地をしばらく走った後、再び海沿いの道に出ると、やはり国後の山々がその美しい姿を現しました。
その日はちょうどロシアのプーチン大統領が来日した日で、偶然とは言え、少々感慨を覚えました。
納沙布岬に着き、車を降りると強風が吹いていました。強い風の中、「四島(しま)のかけはし」というモニュメントの下まで歩いて行きました。モニュメントの所まで来ると、今まで見ていた国後島だけでなく、歯舞諸島の幾つかの島がすぐ目の前に見えました。海の傍には北方領土返還を願う碑などがあり、また「北方館」という施設があったので、中に入って見ることにしました。
中に入ると1階にはパネル程度の展示しかなく、すぐに2階に上がってみると、まず私の目に飛び込んできたのは、青い海と空と、そして国後島の山々と歯舞諸島の景色でした。海の方向には大きく窓が取ってあって、その手前には数台の望遠鏡がありました。その望遠鏡を使って見てみると、数日前にニュースになっていた水晶島に最近できたという教会らしき建物が確かに見えました。また、他にも歯舞の島々に建てられた幾つかの施設や、島の傍にいるロシアのものであろう船なども見えました。実際、歯舞諸島のいくつかは肉眼でもその姿をしかっりと見ることができます。一番近い水晶島は岬から7kmということですから、地続きであれば歩いて行けるほどの近さなのです。
20〜30分ほど納沙布岬にいたでしょうか。シーズンオフのため他に観光客もおらず、土産物店なども閉まっていたので、私達は再び車を走らせることにしました。
根室の町を抜け、風蓮湖を過ぎてから、私達は北の方向に道を取りました。すると少し走っただけで景色はすっかり変わったのです。朝からずっと漁業の町ばかり通って来ていたので、北海道とは言え一度市街地に入ると比較的狭い間隔で家が立ち並んでいたのですが、根室の北にある別海町は道東を代表する酪農の町なので、ぽつんぽつんと酪農業を営んでいるらしい家が建っている以外、遠くまで牧草地帯が広がっています。
そして初冬の東北海道となれば、日没も早く既に夕暮れ時が迫っていることが遠く知床連山が赤く染まり始めていることでわかります。薄いバラ色に染まる雪を頂いた山々と手前には牧草地帯が広がる、その雄大な景色は「いかにも北海道」という風景でした。
また道路脇には「牛横断注意」という標識を見つけました。たまに郊外に出ると「鹿飛び出し注意」という標識は目にするのですが、「牛」というのは私にとっても珍しいもので、友人と私にほのぼのとした笑いを誘いました。
この後、標茶という町に着く頃にはすっかり日も暮れてしまい、家路を急ぐことにしました。
私は普段、自分が日本のかなり端に住んでいるという自覚はあるつもりです。しかし今回実際に車で走ってみて、私のいる所がいかに最果ての地なのかということが実感できました。特に北方領土問題などは、道外の人はもちろん、札幌や北海道の他の地方の人にはなかなか現実味が持てないだろうとも思いました。
しかし晴れた日、海の向こうに見える国後の山々や歯舞諸島を眺める元島民の方達の気持ちを考えると、どうにもやりきれない気持ちになりました。そこには若い時や子供の頃の思い出と、人によっては父祖の墓があるのですから…。
納沙布岬には今も尚、「戦後」という時間が大きく横たわっているだと改めて思い知らされた、そんな1日となりました。
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