logo 発想の転換


ある日突然、官房長官が定例記者会見にノーネクタイで現れ「クールビズ」なる言葉を発した時、私は何のことかよくわからず少々驚きました。一瞬、また小泉さんの人気取りのサプライズかとも思いましたが、話をよく聞いてみると決してそうではないことがわかりました。
地球温暖化防止対策の一環として、夏の間男性はネクタイを外し、上着を脱いでできるだけ涼しい格好をしましょう、そして冷房の設定温度を2度下げましょうと聞き、私は大いに結構だと思いました。またマスコミもすぐに飛びつき、しばらくはその話題で持ちきりにもなりました。あれから1ヶ月が過ぎようとしていますが、実態の方はどうなのでしょうか。

このクールビズ・スタイル、概ね女性にはウケがいいようですが、当の男性はというと、戸惑いも含め必ずしも諸手を挙げて大賛成というわけではないようです。その最たる理由が「だらしなく見える」という意見で、女性でも特に年配の方は同様に感じている方がいるようです。
しかし少なくとも私から見る限り、ただネクタイをしていないから「だらしがない」とは思いません。偶然見た情報番組で男性のファッションの特集をしていましたが、だらしなく見える一番の要因はヘアスタイルやひげなどで、「清潔感」が問題だということでした。実際夏は、半そでのシャツにノーネクタイでも、さっぱりとした髪であまり汗をかいていない方が、きちっとスーツを着てネクタイをしていて汗だくになっているよりよほど好感が持てるというものです。
また女性の立場から言わせてもらうと、男性のそうした正装のために職場でガンガン冷房を効かされて、身体に不調をきたすことは珍しくありません。以前から夏のオフィスで使うひざ掛けなどを用意していた女性も多かったようですし、近年では冷房対策の厚手のカーディガンなどを真夏に見かけたりもします。大体、女性は季節に合わせた服装をするのに、男性だけ年がら年中スーツにネクタイというのは気の毒だとも思っていましたし、一緒に居合わせて「暑苦しい」と思うこともありました。

ネクタイをしていないだけでだらしがないと思うのも、「ネクタイをしていればフォーマルだ」という既成概念があってこそです。しかし、そうしたファッションだってそんなに長い歴史があるわけではありません。むしろ、本来の日本のファッション感覚は四季の変化に対応したもので、スーツやネクタイというスタイルは多少気温が高くても湿度が低い欧米から輸入したものです。
近年ハリウッドの俳優たちは、日本製のハイブリッドカーに乗るのがステイタスだという話を聞いたことがあります。価値観や常識というものは、時代と共に変化するものです。明治維新の後、男性が思い切ってちょんまげを落としたのと同様、「夏はクールビズ」ということが定着しさえすれば、ネクタイをしていないから失礼だということにはならないはずですし、今の地球環境の悪化を考えれば定着させる努力をするべき時ではないでしょうか。
長年正しいと、あるいは当然だと思ってやってきたことを急に変えるのは大変なことでしょうが、男性諸氏、特に年配の方々には是非「地球を救うためなんだ」くらいの気持ちで、発想の転換をしていただけたらと思います。

それからマスコミがこの話題を取り上げるのはいいのですが、やれ「本人のセンスの問題だ」とか言って、挙句にファッションチェックをするのはいかがかと思います。元々、温暖化対策や省エネのために始めようということになったのです。もちろんセンスがいい着こなしをできるに越したことはないかもしれませんが、そんなことは二の次です。冷房の設定を2度下げるとどういう効果があるか検証するなどして、クールビズを一過性の流行に終わらせず、皆が納得して受け入れ、今後必要である限り続けられるようにするために盛り上げてほしいと思います。

そしてもうひとつ気になるのが、ネクタイ業界からクールビズへの異論が聞こえている点です。確かに業界の方にとっては大きな問題でしょうが、政治家も今回ばかりは誰か特定の人や団体に対して利益、あるいは損失を与えるためにしていることではありません。まして日本は地球温暖化だけでなく、ヒートアイランド現象も問題となっています。業界として経済的に苦しくなることは理解できますが、日本の未来のため、その未来を担う子供たちのため、自分たちに不利だからといって安易に反対するのではなく、とりあえず今年は耐えていただけたらと思います。そしてこのピンチを逆にチャンスに変えて、クールビズに適応する何か新しい商品を開発できないものでしょうか。ネクタイ業界には、そうした意味で期待をしています。



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