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いつの頃からでしょうか、「食の安全」という言葉を頻繁に耳にするようになったのは。「食べる」ということは、人間が生きていく上で重要な行為のひとつですが、バブル期などはよく「飽食の時代」などとも言われ、以来、日本人の食に対する感覚が問われ続けてきたようにも思います。そして最近は、スローフードや地産地消といった新しい食のあり方と共に、BSE問題や遺伝子組換え作物など、旧来の農薬汚染などとは違う新たな問題が取り沙汰されるようになりました。

北海道産の食品というと、一般的にはどのように受け止められているのでしょうか。恐らくまずは、おいしい魚介類や乳製品のブランド的なイメージが多くの方にはあると思います。
道内に住む人間として最初に思いつくのは、冷涼な気候のため害虫などの被害が少なく、したがって温かい地方に比べると農薬の量を少なくすることができるという「安全な食品」のイメージです。道外の方がどのように感じられているかはわかりませんが、例えば安全な食品に関して条例を制定し、今後更にそのイメージを高めたいというのは、道庁など官側にもあるようです。
ところが、最近になって遺伝子組み替え作物を作りたいという農家が北海道農業の中心とも言える地方に現れたのです。同じ地方の他の農家はこの動きに対して一様に反対していますし、知事や道庁側もそれを規制しようという方向のようです。これは一重に、「たった一軒の農家が遺伝子組み替え作物を作っているばかりに、北海道産の食品全体のイメージダウンを恐れる」、所謂風評被害を憂慮してのことのようです。しかしこの動きに対して農業の研究者などからは、農業王国北海道として、安易に規制などをするのは「可能性を狭めるだけだ」と警鐘を鳴らす意見も出ています。

遺伝子組み替え作物は、農産物を作る側にとっては農薬同様、多くの物をより楽に、より安価に作る「技術」の一つと言っていいでしょう。しかしBSE問題で表面化したように、「本来の自然界にはあり得ないモノ」を農業に導入することにより、今はまだわからない何かしらの害が、将来人間に及ぶかもしれないという懸念があり、消費者からのイメージも悪いと言わざるを得ません。ところがそんな消費者の不安をよそに、BSE問題はここに来てアメリカからの輸入再開のため、国としては全頭検査を止める方向の話も出てきたりしています。

低農薬・無農薬、あるいは有機栽培の農産物を作り、そして遺伝子組み替えなどはしないという「北海道ブランド」を守るということは、今の時代に於いては「戦略」として非常に有効だと、私は思います。
しかし現実に目を向けると、それらが虚しいと言わざるを得ないのもまた事実です。
例えば私は、スーパーで肉や野菜を買う時にはできるだけ道産、あるいは国産の物を買います。個人的な偏見ではありますが、特に中国産やアメリカ産の物しかない場合は、予定のメニューを替えてでもそれらは一切買いません。また豆腐を買う時は、原料の大豆が道内産の物か遺伝子組み替えをしていないということが明記されているものを買うようにしています。
しかしこのようなことをしていながら、自分は「無駄な努力をしている」ということも十分認識しているのです。なぜなら、遺伝子組み替え作物の代表格とも言える大豆は、味噌や醤油といった多くの加工食品の原料であり、それらのほとんどが輸入品に頼っている現状があります。また、同じ大豆製品でありながら納豆や油揚げなどの食品は原料が遺伝子組み替えかどうかの表示義務はなく、多くの食品にはそれらが使われている可能性が高いという話も聞いたことがあります。
そしてそういう話は大豆製品に限ったことではありません。野菜にしろ肉にしろ、外食を含め加工食品を利用する機会が多い現代で、私たちは自分が食べている物がどこでどのように作られたかなどわかるはずもないのがむしろ当たり前の状況です。またうがった見方をすれば、自ら選んで直接買う物だって表示を信頼しているだけで本当はどうなのか、疑い出せばキリがないのが現実です。
本当に身体に悪い物を食べたくないとなると、極端な話自分で作るしかないわけで、それはほとんどの人にはできることではないですし、人様が作ってくれた食べ物を買って食べるということは、最後は作る側と売る側と買う側の信頼関係が全てだとも言えます。

そうは言っても、やはりできることなら身体に悪い物は食べたくはありません。そのためには遺伝子組み替えがどうとか、BSEがどうとか、個別の事象にこだわるだけではなく、食生活のあり方はもちろん、日本の社会や経済などをマクロ的に見ていかなければ木を見て森を見ずということになってしまうのではないでしょうか。
遺伝子組み替えも農薬もどこまで規制ができるか、規制してもどこまで監視できるか、あるいはどこで線を引くかが重要でもあり、難しくもあると思います。そして最終的には各人が情報に流され過ぎることなく、「食の安全」について自分なりの意見を持つことも大切なのではないでしょうか。
私はやはり、無駄な努力だとわかっていても、一消費者としてささやかながら抵抗をすると共に、少しでも家族と自分の身を守るために、可能な限りより安全な物を選んで買う努力はし続けることでしょう。



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