logo 少年の夢と涙


今年の夏は、プロ野球のファンにとっては「闘いの夏」となりました。理由は説明するまでもなく、近鉄とオリックスの合併問題に始まった一連の騒動です。
この件に関しては、様々な場で色々な人がそれぞれぞれの立場で主張していて、マスコミもそれをフォローするだけで大変なのではというほど情報も錯綜しています。ですから敢えてここでは、多くのファンが何故合併や1リーグ制に反対なのかということには言及はしません。ただ、色々な報道やインターネット上でのファンのやり取りを見聞きしていて、プロ野球ファンはもちろん、プロ野球にあまり興味のないという方に誤解をして欲しくない、あるいは是非知って頂きたいことがあります。

まず一部報道、あるいは一定の立場の方がよく言われることに、「球団の赤字の原因は選手にも大いにあるのに、それを棚に上げて『合併するな』とは何事か。そんなことを言うくらいなら、年俸を下げてくれと言え。」といった趣旨の発言があります。億単位の年俸をもらっている選手もいるので、一般の方から見ると至極当然のようにも聞こえるかもしれませんが、この発言を鵜呑みにはして頂きたくないのです。

一部選手の年俸が高いのは事実です。しかし身体を張って、しかも十数年間という短い期間の中で、更に数年間活躍した時に多額の年俸をもらえるという選手がほとんどです。個人的な意見としては、「基本的に」高過ぎるとは思いません。
そして、年俸の高騰を招く原因となったFA制度についても、「選手が希望したから導入した」ように言う人もいます。確かに選手側はFA制度の導入は要求しましたが、現実のFA制度は選手達が要求したものとはかなりかけ離れたものになってしまったようです。
当初選手側としては、人気選手が自分の行きたい球団や自分を高く買ってくれる球団に移籍するという今のシステムより、出場機会が少ない選手がより自分を活かせる球団に移籍する自由を得たかったようです。ところがこの選手側の要求を、一部の球団が自分達の都合のいいように内容を変えてFA制度を導入してしまったのです。
問題になっている球団の多額の赤字の要因のひとつに、FAの移籍金というものがあり、基本的には年俸の1.5倍という金額を移籍前の球団に払わなければ選手を獲得できません。こんな制度があれば、お金のない球団はFAで選手を獲得したくともできるはずがありませんし、中堅クラスの選手には買い手がつかず、結局売り手市場で有利になれる大物クラスしかFAでの移籍をしないという流れになったのです。そして、そんななし崩しのFA制度ができてしまったのは、言わずと知れた人気球団にとって有利だからで、それはドラフト制度も同様です。
ドラフト制度は元々、各球団の戦力が均等になるように設けられているシステムで、前年の下位球団から順に指名できるウェーバー制が本来あるべき姿です。そしてドラフト制度が完璧に機能して、初めてFA制度も存在価値がでてくるのです。ところがドラフト制度は、数年前から逆指名や自由獲得枠という制度が導入されたことで、有望な新人選手を獲得するために、裏金が動いてるというのがもっぱらの噂で、その裏金がやはり不人気球団の経営を圧迫したと言われています。

日本でプロ野球の選手の多くは、決して恵まれた環境にある訳ではありません。恵まれて見える選手はごく一部の限られた選手だけです。今回の問題、その点だけは誤解をして頂きたくないと思うのです。

そしてもうひとつ、一般の方から見て人気がないと思われる球団について話をさせて下さい。
パ・リーグには長い間優勝もできず、全国的に見ると「ファンなんているの?」と多くの人に思われていて、今回の騒動の中でも第二の合併球団として常に名前が上がっているチームがあります。千葉ロッテマリーンズです。
しかし実はこのチーム、ファンの質の高さはパ・リーグファンの間では定評があり、「マリサポ(マリーンズサポーター)のファン」という人も珍しくないほどなのです。
マリサポの質の高さについての説明は今回はしませんが、そんなマリサポの小学生の男の子についての話を、ある別のパ・リーグ球団のファンサイトの掲示板で目にしましたので、紹介させて下さい。


千葉で署名活動をしている方が、あるお母さんから聞いた話です。

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署名活動中、千葉マリンで顔見知りの、小学生の男の子を持つお母さんに訴えられました。ちょっと話をきいてくれ、そして頑張ってくれって。

「ウチの息子、泣きながら"合併反対"のボード、作ってたのよ、昨日の夜。マリーンズどうなっちゃうのって聞くのよ、マリーンズ大好きだって、無くなったらどうしよう、どうしようって…それで、もう遅いから寝なさいって言ってもききやしないのよ。ぽっろぽろ、ぽっろぼろ、涙ぽたぽた落としながら、『合併反対』のボード、塗っているのよ…」

千葉のマリーンズファンの小学生の男の子。応援してきて、いいめなんか見た事無い。最大のイベントは18連敗(苦笑)。でも

「大きくなったら僕、野球選手になる! それでマリーンズはいって、僕がマリーンズを強くするんだ!」

って頑張ってる。絶対にマリーンズを優勝させてやるんだ、とか言っている(^^)

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私は、これを読んで泣きましたよ。この子がどんな気持ちでそのボードを作っているかを考えたら、もう…

−中略−

子供に夢を与える商売なのに、夢を奪ってはいけませんよ…


私もこの話を見た時は、恥ずかしながら涙が止まりませんでした。この子の気持ちを考えると、大人として自分はこれでいいのか、もっとするべきことがあるのではないかと思いましたし、この子の涙は私たちファンの涙でもあるのです。

球団には球団の経営があり、経営が行き詰まったから手放すことは仕方のないことだと思います。選手会も多くのファンも、別にいつまでも多額の赤字を抱えたまま球団を経営し続けろと言っているわけではありません。本来は近鉄が身売りをすればいいだけのことで、合併で球団を減らす前に、もっとできることはあるはずですし、その第一歩は話し合いだと思います。しかし、現状では球団の経営者サイドは、ファンはもちろんのこと、選手と話し合うことさえしようとしていないのです。選手もファンも多くはそのことに、一番憤りを感じているわけです。
そして今回のことで、マリーンズファンに限らずこの男の子のように泣いている子供達は他にもたくさんいるのではないでしょうか。

プロ野球に限らず、現代社会に於いてスポーツというものは多くの人に夢を与えるからこそ存在意義もあるはずです。その夢をファンから奪うような今のプロ野球界の流れは、やはりファンとして見過ごすわけにはいきません。



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