logo タマちゃんとキタキツネ


冬の北海道。真っ白い雪原の中にキタキツネがいたり、林の中にエゾシカがいるといった映像や写真をよく目にします。普段野生動物を目にする機会が少ない方にとっては、きっと北海道らしいこれらの風景は魅力的に映るかもしれません。

さて以前大ヒットしたドラマで北海道を舞台にしたものがあり、そのドラマの中でキタキツネに声を掛けていたシーンがありました。そしてその影響でしょうか、他のテレビ番組などでも同じようなことをしているのを何度も見たことがあります。また観光地の近くを車で走っている時に、道外ナンバーの車が路肩に止まっていて、観光客と思われる人が車から降りてキタキツネに餌をやろうとしているのも見たことがあります。
北海道は言わずとしれた大自然の宝庫です。しかし自然というものはその性質を理解していないと、時には人間に対して牙をむくことがあります。件のドラマのシーンを見た時も、「うわぁ、東京の何も知らないテレビ局の人はなんてことをしてくれるんだぁ!」と思ったものです。キタキツネには「エキノコックス」という寄生虫が寄生しています。この寄生虫は人にも感染するもので、もしも感染し悪化すれば最悪死に至る場合もあるので、北海道の人は絶対にキタキツネに近寄ったり、ましてや餌付けなどをすることはありません。またあのドラマのように声を掛けても、キタキツネが近づいて来たりはしないということも聞いたことがあります。
それなのにテレビでそのようなシーンを全国放送すれば、観光などで北海道に来た時に同じようなことをしたくなるのは、むしろ当たり前のことです。そのようなシーンをテレビで全国に放送するということに、無責任さを感ぜずにいられない道民は私だけではないと思います。

またこの時期になるとエゾシカも、時には人間にとって「恐ろしい凶器」と化すことがあります。郊外を車で走っていると、エゾシカが突然道路を横切ったりすることがあるからです。エゾシカは意外と大きく、衝突するとかなり大き目のRV車などでさえも簡単に壊れることがあるので、車両の事故はもちろん、まれに人が怪我をしたり亡くなったりもするのです。私も以前、夕方で視界の悪い時に気がついたら目の前にシカがいて、危うくぶつかりそうになったことがありました(お陰さまで事故にはなりませんでしたが)。

以前新聞か何かで、「最近『自然との共生』ということが言われるが、悠久の自然から見たら人間の存在はほんの小さなもので、人間はその自然のわずかな部分を利用させてもらっているのに過ぎない。『共生』などという考え方は人間の驕りでしかない」という話を読んだ覚えがあります。その記事を読んだ時は、まさに「目からウロコ」という感じがしました。

そんなことを考えていて、ふと思い出したことがあります。最近はニュースがあると見えてあまり目にすることがありませんが、あのタマちゃんは今どうしているんでしょうか。実を言うとあの話も「関東に野生のアザラシが出現したから珍しいだけなんだろうから、全国ニュースにせずに関東ローカルで報道して」といつも思っていました(私も野生のアザラシは見たことはありませんが)。
でも特にその中でもタマちゃんを救う会だか何だかが、捕獲をしてまで何とかタマちゃんを生息地に帰すべきだと言っていたのは、私個人の意見としては「ちゃんちゃらおかしい」ものでした。先ほどの「悠久の自然」という話のスケールで考えれば、タマちゃんが迷子になって関東まで来てしまったこと、それもひとつの自然の成り行きでしかないはずです。身体が丈夫で長生きするアザラシがいれば、反対に早死にするアザラシだっているでしょう。そしてそれはアザラシに限らずどんな生物にもいえることだし、人間にも言えることなのにタマちゃんにだけそんなことをしようとしている人の、自然というものに対する浅はかさというものを感じました。

北海道に限らず貴重な動植物は日本中、世界中にあり、多くの種が絶滅の危機に瀕しているようです。逆に町にカラスが増えるなど、現代においては明らかに生物のバランスが崩れていることは間違いないことでしょう。 正直な話、私は自然保護や動物愛護などといったことに特別関心があるわけではありませんし、普段の生活の中で自然に触れることはほとんどありません。よく考えてみれば、都会ではなくても文明社会で生きているとどうしても自然からは遠ざかってしまうものなのでしょう。
先日久しぶりに友人と郊外へドライブに出かけました。運良く天気のいい日で白鳥やエゾシカにも会えました。これからは時折自然に触れる機会を作った方がいいかもしれないと、最近思ったりしています。

最後にひとつ、お願いがあります。このコラムを読んだ方で下さった方がもし北海道に来る機会があったら、キタキツネに「ルールールー」って声を掛けたり、餌をやろうとしたりしないようにして下さいね。



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