logo SOMEDAY Collector's Edition - 曲目解説(オリジナル)


01 Sugartime アルバムに先がけてリリースされたシングル曲。シングルとはブレイク時のささやきが異なっている。非常に洋楽的なイディオムを取り入れたシンセのフレーズに象徴されるキャンディ・ポップに仕上がっているが、ヒットはしなかった。ポップな曲調に乗せてシリアスなメッセージを伝えるということは当時の佐野が非常に重視していた戦略だが、この曲はその最良の果実の一つだろう。コーラスには杉真理が参加。後にライブ・バージョンがシングル「ぼくは大人になった」のカップリングとしてリリースされている。

02 Happy Man こんな曲を作るアーティストはそれまで日本にはだれもいなかった。「世界中のインチキにAi Ai Ai」だ。僕の魂も君の魂もスウィング、そしてシャウト。ある意味で佐野元春の思想性を最も端的に表した曲の一つかもしれない。ライブでも定番で、「Happy Manメドレー」と称してこの曲を導入にメンバー紹介のメドレー、「Welcome To The Heartland」になだれこむことも多かった。佐野の曲の中でも最高のパーティ・ソングであり、佐野のソングライティングの水準を示す代表作の一つと言ってよいだろう。

03 DOWN TOWN BOY だれもが一時期抱えこむ、この世界との対立をビートする名曲。シングル・バージョンの録音が気に入らなかったため、このアルバム収録に際して新たにレコーディングされた。「でも大丈夫、そう、あいつはこの街のガキだからさ」。僕たちの偽悪的なポーズの奥に隠された心細さ、やりきれなさを佐野元春は知っていた。そして僕たちがいつかその場所から離れて行かなければならないということも。だからこそ僕たちは今でもこの曲を聴いて泣きそうな気持ちになるのだと思う。何ものにも代え難い我が心のアンセム。

04 二人のバースデイ スウィートなバースデイ・ソング。「君のバイオリンはこれから先二度と聴けないような神秘的な調べを奏でてくれた」。このアルバムにしか収録されておらず、ライブでもほとんど演奏されないが、認知度、人気は結構高い曲。オーソドックスなシャッフル系のポップスだがシンコペーションを多用することによって都会的な雰囲気を出すのに成功しており、佐野の当時としては斬新なセンスをうかがわせる。アウトロのコーラスは「Happy birthday, here we come.」と歌っている。

05 麗しのドンナ・アンナ 派手さのないスローテンポの曲だが、佐野のソングライティングの系譜において重要なフレーズを多く含んだ作品。「ポケットで吠え続けてる哀れなファイト」の譜割りは画期的。「クルマのワイパー見つめたままのミッドナイト」といったフレーズでリスナーの中に鮮明なシーンを立ち上がらせる言葉の喚起力は、情感に訴える「泣き」の手法に頼り切っていた日本のポップス表現の中で確実に異質だった。「VISITORS TOUR」で歌われたフォークロック・バージョンもよかったが音源化はされていないのが残念。

06 SOMEDAY 今さら解説の必要もない代表曲だが、重要なことはこの曲が決して佐野の音楽的特性を普遍的に代表している訳ではないということだろう。この曲はアルバムから1年近くも前にシングルとして発売されたものであり、その時点では佐野自身ですらこの曲が何を意味しているか理解していた訳ではないだろう。ただ、日常的に使い古され、手垢のついた語彙に再び力を与えポジティブに響かせる奇跡はこの曲で一つの頂点を見せる。何かを希求すること、何かを信じることの必要性を現代に刻印した名作という他ないだろう。

07 I'm in blue 沢田研二に提供した曲を自ら歌ったもの。沢田研二のアルバムでは伊藤銀次がリバプールふうにアレンジしたが、佐野は深みのある内省的なポップスとしてこの曲を歌った。「僕は負けたんだ、僕は夢を見てるだけなんだ」と宣言するこの曲は都市生活の切ない漂泊を切り取って見せる。しかしその根底にあるのはそうした孤独とともにあるギリギリのオプティミズムのようなもの。「二人のバースデイ」と同じくこのアルバムでしか聞けない曲だが、特にオールドファンの間では人気の高い曲。ライブでは一度だけ聞いたことがある。

08 真夜中に清めて カテゴリー的にはスローバラードだが特徴的なベースラインがこの曲を際立ったものにしている。この曲のテーマはタイトルからも分かるように「浄化」。このアルバム全体が都市生活についての佐野の独白であるとするなら、この曲はそこで暮らすために我々が日々スピリットを更新し、上書きして行く儀式のことを歌っている。「街のJazz」というフレーズは他の曲にも散見される重要なイディオムであり、クールであると同時にハイリスクでもある都市生活の本質を見事に看破した表現であると思う。

09 Vanity Factory 「I'm in blue」と同じく沢田研二に提供した曲。ストレートなロック・チューンだがベースは跳ねておりR&Bの影響も感じさせる。後に「Fruits Tour」で演奏されるまでステージで披露されることは少なかった。コーラスには沢田研二が参加。非常にバタ臭い曲であり、歌われている情景も我々の日常生活からは離れた小説的なものであるにも関わらず、それがリアルな説得力を持って迫ってくるのは佐野のソングライティング、アレンジ、そしてボーカルの力によるものだろう。

10 Rock & Roll Night 佐野の代表曲の一つであり、このアルバムの核となる、8分以上に及ぶロック・オペラ。この曲で佐野は都市生活に不可欠な「瓦礫の中のゴールデンリング」について歌う。曲中この歌詞にだけ3度のハーモニーがついているのは決して気まぐれではない。心が舞い上がる一瞬を掴みたい、という佐野の言葉通り、この曲で我々の魂は高揚し、そこに確かに何かの姿を見たという強い残像が網膜に焼きつくだろう。しかしそれは朝の光とともに再び消え去り、我々にはその記憶だけが残される。そして我々は新しい旅に出かけるのだ。

11 サンチャイルドは僕の友達 「Rock & Roll Night」がそのように苦く切ない朝を迎えるとき、佐野はこのアルバムをそのまま終わらせることができなかった。「Rock & Roll Night」の長いピアノのアウトロの後、キックの音を合図に歌われる朝の光への賛歌。我々の運命の不完全性に対するささやかな赦し。後にアルバム「GRASS」に収録されたストリングスをフィーチャーしたバージョンもカッコよかったが、もともと強くビートルズの影響を感じさせる曲。この曲なしにこのアルバムは終わらない。キックの音でアルバムは幕を閉じる。



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