logo 「The 20th Anniversary Edition」発売に寄せて


SCRATCHより親愛なるSilverboyへ 元気にしているかい?

君も既に知っている通り、日本では遂に佐野元春の「The 20th AnniversaryEdition」が発売になった。今回はレコード会社もかなり力が入っているようで、店頭で派手なキャンペーンが張られているレコードショップも多い。佐野本人も、ツアー開始を目前にして民放の音楽番組にバンドを引き連れて出演したり、エルビス・コステロと共演するなど話題づくりに精を出している。僕の住む横浜にあるテレビ神奈川では、今週1週間、音楽系の番組に朝から晩まで片っ端から出演して馴れないトークを懸命にこなしているよ。残念ながら生放送ではないけれどね。

佐野が出演した一連のトーク番組で、新曲「INNOCENT」と並んで交互に流されているビデオクリップがある。「SOMEDAY」。今回のアルバムリリースに合わせて編集されたもののようだが、「こんなに残っていたのか…」と感心させられるほどいろいろなライブで佐野が唄い、踊り、叫ぶ姿が、これでもかというほどこの1曲の中に詰め込まれているんだ。君にもぜひ見てもらいたい。一刻も早くこのクリップが君のもとに届くことを僕は切に願っている。

ダークスーツを肩から背中までびっしょりと汗で濡らし熱唱する若き日の佐野。

額に巻いたヘアバンドを後ろに長く垂らし、オベイション・ギターをかき鳴らしながら観客を鼓舞する佐野。

ステージから無数の風船が空へと放たれ、ステージに佐野が走り出る有名なCafeBohemia Meetingのオープニング。

雷の鳴る横浜スタジアムで、その手から力強く鳩を放つ佐野。

短い髪、Tシャツにサスペンダーでワインカラーのアコースティックギターを手に唄う佐野。

教会の脇の駐車場で、駆けつけた熱狂的なファンを前に腕を振り上げる佐野。

THE HEARTLAND最後の武道館で、サックスソロを奏でるダディ柴田に走り寄り後ろから抱きつく佐野。

LAND HO!の終演直後、ステージから下りて伊藤銀次とがっちり握手を交わす佐野。

ステージ狭しと暴れ廻るスカパラホーンズを目を細めて見守る佐野。

ステージの中央でギターを立てて鳴らしながら、目を閉じて会場の声援を感じている佐野。

Woodstockのスタジオで、佐橋佳幸と仲良くソファーに座りギターに興じる佐野。

「クルクル、パンパン」とやりながら、客席ににっこりと笑いかけ親指を立ててみせる佐野。

市販されている見慣れた映像もあり、今まで個々の記憶の中にだけその姿を留めていた、未発表の映像もある。実に様々なライブ、様々な場面。ただしそこにはひとつだけ共通点がある。佐野はどの映像の中でも常に真剣に観客と対峙し「SOMEDAY」を唄い続けているんだ。佐野元春がこの曲とともに生きてきた20年(正確には17-8年だが)がここにある。そして僕がそれを見つめる時、「SOMEDAY」と唄う佐野の姿の向こうには、他ならぬ僕自身が生きた20年が驚くほど鮮やかに蘇ってくるんだ。

「このライブの時、僕は会社の先輩に無理言って残業を代わってもらったっけ。」
「こっちのライブは恋人にそっぽを向かれてしまい、初めて1人でライブを観に行ったんだ。」
「そしてこの時は、仕事で大きな失敗をしてめちゃめちゃにへこんでいた。」
「そしてこの時は…」

僕は決してノスタルジーに浸るつもりはない。しかし、長かったようでもありほんの一瞬でもあるような20年という歳月が、佐野元春という人物と、彼が唄う歌にすべからく投影されて僕の中に格納されている、このことは紛れもない事実なんだ。きっと僕はこれからもこうして、彼と彼が生み出す曲にリアルタイムの自分を投影し続けていくだろう。僕は今までの佐野に「ありがとう」と心から言いたい。そしてこれからの佐野にも「ありがとう」と。彼が新曲「INNOCENT」で、彼をとりまくあらゆるものに「ありがとう」と言ったのと同じようにね。

佐野元春が何故「SOMEDAY」という曲を何があっても唄い続けているか。僕は今、本当に実感として解った気がする。

それじゃ。また今度。

SCRATCH




親愛なるSCRATCHへ 元気でやってますか?

君からのメールを読んだ。20年。長い時間だ。生まれたばかりの子供が大人になり、閏年が5回やってくる。その間、佐野元春の音楽はずっと僕のそばにあり、そして君のそばにもあった。彼はずっと歌い続けてきたし、僕たちはそれを聴き続けてきた。

最近ではちょっとなかったくらいプロモーションにも力が入っているのは君が指摘する通りだ。僕はそれを肯定的に受け止めたい。佐野はエピックと20年間寄り添ってきた。佐野はエピックに育てられたが、まだ若いレコード会社だったエピックも佐野に育てられてきた。佐野は比較的自由に作品をリリースしてきたが、それによってエピックは少なからぬ経済的な利益を得たはずだし、それは同じレコード会社に所属する若いアーティストにもプラスに作用したはずだ。

もちろん互いにフィットしない部分も幾分かはあったに違いないが、ともかく20年を円満に連れ添ってきたアーティストとレコード会社が、今、その20周年を記念して大々的にキャンペーンを打っていること、つまりレコード会社はカネと手間をかけたプロモーションを展開し、アーティストは不慣れなテレビ出演やトークにも懸命に応じていること、そしてそれがレコードの売上とアーティストの認知というそれぞれの正当な利益を引き出すこと、互いの努力が互いの利害に合致することはまったく幸福なことだと思う。

そのような盛り上がりの中で、僕たちは否応なく自分が佐野と過ごした時間を振り返ることになるだろう。君がそうしたように、そして僕がそうしているように。その中で僕たちは佐野の歌をよすがとして、自分自身が何を信じてきたのかということをこそ見るだろう。君が書いた通り、「ありがとう」は佐野の言葉であると同時に僕たちの言葉でもなければならない。僕たちは同じ真実を探し続けてきた。僕たちも、僕たちを取り巻くすべてのもののありようひとつひとつに、今「ありがとう」と言うべきなのだ。

僕は今、機会を得てある雑誌に僕自身の中の佐野元春について書き始めている。これがいつ完結するかはまだ分からないけれど、君が日本でそれを目にしてくれることを願っている。それが僕の、君への本当に返事になると思うから。

離れずに行こう、時を越えて。また君が知らせをくれるのを待ってる。

Silverboy




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