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立ち上がれ。立ち上がって闘え。

ホットスポット。「GO4」にちりばめられた見覚えのあるフレーズを目にしたとき、僕の頭の中に浮かんだのはそんな言葉だった。クリックするだけで別のドキュメントにジャンプできるアンダーラインのついたキーワード。無限に連鎖するネットの中でシナプスのようにそれぞれを結びつける接点。それは、かつて自分が発した言葉は今こうして生きている、こんなふうにつながっているという佐野元春の意志表示に他ならない。

かつて新しいシャツを見つけに行った佐野元春は、今、「しまいこんで忘れていた よれよれのシャツに着替えて」と歌う。過去とのつながりがこれほど露骨に意識されたアルバムも珍しいだろう。だけど僕はそれが決して後ろ向きなものでないことを信じたい。それは自分を育んできたものを確認する営為であり、今の自分が過去からの連続性の上に成長してきたことに対する自負でもある。そしてまたそれはこれからの自分が更にそこから成長してゆくべきことの宣言であり、自分とリスナーに対する挑戦でもあるはずだ。

但し難点はある。一つは歌詞に不用意な言葉遣いが目につくこと。かつて佐野は、日常の中で手垢にまみれた言葉の内実を批評的に再検討することで、陳腐になりかねない表現に新しい力を与えてきた。このアルバムでも「過ぎてゆく毎日がサバイバルの日々」「力強く実れ、大事に蒔いた種」などの秀逸なフレーズはもちろん健在だが、しかし一方で首を傾げざるを得ない苦しい表現も目立つ。「仲間でいるときが100%ハッピー 孤独でいるときは10%ラッキー」「ふくれあがった権利、便利、心理、管理」「明日また会いたい約束 会えなくなるそんな目測」なんて表現が、僕たちの日常的な言葉遣いを異化して言葉の意味を洗い直すという方向に作用せず、ただ耳に違和感を残して行くだけに終わりがちなのは残念だと思う。日常に近い言葉で引っかき傷をつけるようにイタミを伴った不協和音を生々しく奏でるという意図は理解できるとしても、その言葉に日常を突き抜けてゆくだけのスピードや力が不足しているのではないだろうか。

次に、「GO4」や「驚くに値しない」などのアグレッシブなナンバーと、「メッセージ」や「シーズンズ」といったポップ・チューンの間を橋渡しする「輪」のような曲が見当たらないこと。言い換えればそれは先に書いたこれまでの軌跡の確認や自負とこれからへの宣言や挑戦との間をとりもつ現在のニュートラルな佐野元春が見えにくいということだ。その役割を本来果たすべき曲はいうまでもなく「石と卵」なのだが、この曲の弱さがアルバム全体の統合を妨げている。この曲を全編ファルセットで歌う必要はなかった。キーを下げてささやくように自然に歌った方が意図は達成されたのではないかと思う。

最後に、「輪」が欠けていることもあって、アルバム全体の統合感が弱く、流れが悪いこと。特に「GO4」と「GO4 Impact」を両方収録する必要はなかった。この曲は降谷建志のリミックスが恐ろしいほど決まっているのだから、「Impact」だけを収録した方がこの曲の存在意義もよりはっきりしたはずだ。同じ歌詞で歌われる曲を2回収録するのはいかにもくどいしアルバム全体が散漫になる。「メッセージ」「君を失いそうさ」「C'mon」「だいじょうぶ、と彼女は言った」「驚くに値しない」「エンジェル・フライ」「シーズンズ」「石と卵」「GO4 Impact」という曲順でどうだろう。

僕はこのアルバムを、ウェル・プロデュースされた名作だとは思わない。だけど好きな曲のいっぱいつまったかけがえのないアルバムであることは確かだ。佐野がはりめぐらしたリンクが、仲間内での自閉した自己満足にならず、このリアルでアクチュアルな世界をビートするものであって欲しいし、それは可能なことだと僕は考えている。なぜならこのメッセージをどう読むかは、僕たちに委ねられているのだから。




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