真夜中近く、リビングの片隅で電話のベルがが鳴り出す。
S : もしもし。
N : …。(何も答えない。受話器の向こうからはただすすり泣きが聞こえる)。
S : もしもし? もしもし?
N : …。(すすり泣き)
S : もしもし? 君だろ? 君だね? どうしたんだ?
N : …。(依然としてすすり泣き)
S : おい、君だろ? どうしたんだ? 泣いてちゃ分からないよ。なんとか言えよ。
N : …。(やはりすすり泣き)
S : (少し怒って)いい大人がどうしたっていうんだ、まったく。何があったんだ?
N : …。(それでもすすり泣き。だがその背後からかすかに音楽が聞こえてくる)
S : (何かきづいて)ねえ、君、聴いたんだね? そうなんだね?
N : …。(相変わらずすすり泣き。だが今でははっきりと背後で流れている曲が「メッセージ」であることが分かる)
S : 聴いたんだね? そうなんだね?(なぜか涙声になっている)
N : …。(肯定するかのように声を上げて泣き出す)
S : …。(泣いている)
N : …。(泣いている)
S・N : …。(泣いている二人の背後で音楽だけが流れて行く。「君はその目でこのメッセージをどんなふうに読みとるのか」と佐野元春は歌っている)
やがてどちらからともなく静かに受話器が置かれる。だが、音楽は流れて行く。佐野元春は歌っている。