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■Playback 1958年
■プレイバック 清水俊二訳 ハヤカワ文庫 1959年

チャンドラーが書いた7作目のマーロウものであり最後の作品である。前作が重厚なつくりであったのに比べるとこの作品は分量も少なく、また物語の手触りもいささか趣が異なっている。清水俊二のあとがきによれば、チャンドラーがハリウッドで映画の仕事をしていた時に書いた映画のシナリオに手を入れたものらしいが、それにしてもここで描かれるマーロウは我々の知っている彼とは随分様子が違うようだ。

マーロウはアムニーという弁護士から電話で朝早くたたき起こされ、ある女の尾行を依頼される。この経緯からして違和感があるが、マーロウはぶつぶつ言いながらも結局これを引き受ける。この女の素性は何なのか、そしてだれが何のために彼女の行方を確かめようとしているのか、その謎を中心に物語は展開するのだが、マーロウは独断で彼女に接触し、その謎にどんどん首を突っ込んで行く。

マーロウは最終的にこの女、ベティ・メイフィールドと一夜を共にし、またアムニーの秘書ともベッドに入る。途中でふたりほど人が死ぬのだがそのストーリーもかなり適当で、あまり必然性が感じられない。ジャンキーの駐車場係がオーバードーズで自殺する経緯ももうひとつよく分からない。最後まで話を読んで犯人と思しき人物の告白を聞いても話のつながりははっきりせず、またマーロウがどうやってその洞察に至ったのかも判然としない。

結局のところマーロウものらしい雰囲気こそそれなりに漂わせているものの、手にとって確かめることのできるほどの実体は何もない作品であり、そのせいかマーロウ自身も右往左往するばかりでどうにもくたびれて見えてしまう。エスメラルダという架空の高級住宅街も書き割りのように平板で空疎だ。

清水が指摘する通りクラレンドンの独白も不可解。「プレイバック」というタイトルはシナリオの使い回しを自嘲的に名づけたものか。「タフでなければ」という有名なセリフくらいしかポイントのない作品。


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