logo 役に立つドイツ旅行のポイント 安全管理について


自分の身は自分で守る

昔から「日本ほど安全な国はない」と言われてきましたが、最近ではそれも怪しくなっているようですね。しかし日本人の安全に対する意識がヨーロッパで求められるそれに比べていまだに低いことは残念ながら事実のようです。ここではヨーロッパで自分の身を守るにはどうしたらよいかということを考えてみたいと思います。

まず大前提として、自分の身は自分で守るしかないということは肝に銘じて下さい。添乗員も旅行会社も、ホテルの警備員も警察も、ガイドブックもウェブ・サイトも、あなたをサポートしてはくれますが、あなたの代わりに強盗に刺し殺されてくれる訳ではありません。何があっても最終的には自己責任だということ、自分の行動には自分で責任を持つということをしっかり頭にたたき込んで下さい、今、ここで。

次に、リスクを少なくすることはできてもリスクをなくしてしまうことはできないということを覚えておいて下さい。どんなに気をつけても不幸にしてだまされること、置き引きやひったくりに遭うことはあり得ます。それらを100%避ける方法は旅行に行かないことしかありません。ここに書かれているのはリスクを少なくする方法でありリスクをなくす方法ではないということを理解した上でお読み下さい。

周囲にアピールする

例えば数人の男に取り囲まれて羽交い締めにされ荷物を丸ごと取られた、というような話を聞くと、そんな被害を防ぐ手だてはないように思えます。確かに実際そうなってからではあなたがガオレンジャーでもない限りもはやどうしようもありません。しかし、強盗の身になって考えてみましょう。強盗だって余計なリスクは取りたくないはずです。大柄なオヤジよりは華奢な女の子、地元の人よりは勝手を知らない観光客、強盗は常によりイージーなカモを狙っています。

だとすれば、もしあなたが強盗に「オレは確かに観光客だがオマエらの手口は知ってるぞ。簡単に被害に遭わないように気をつけてるぞ」というメッセージを送ることができれば、彼らはもっと他の、より無警戒なカモを狙ってくれるはずです。彼らだってきちんと警戒している観光客よりは無警戒な観光客を襲いたいし、その見極めに関してはプロなのです。彼らだって最小の労力で最大の効果を上げたい、警察の世話になったりはしたくない、そのための営業努力は行っているのです。

それ自体は無意味に思えるようなことでも、それを通して「私は身の安全に自覚的である」と周囲にアピールできれば、犯罪の被害に遭う可能性はそれだけでググッと下がります。これは安全対策の基本的なコンセプトの一つです。

危険な場所に近づかない

では具体的に見て行きましょう。まず危険な場所には近づかないことです。危険な場所の筆頭は中央駅でしょう。どこの街でも中央駅とその周辺はもっとも治安が悪くジャンキーや浮浪者、スリや強盗が集う犯罪のメッカです。駅を避けて旅行することは困難ですが、ここでは警戒のレベルを上げなければなりません。もっとも、大きな駅には警官が常駐していますから過剰に神経質になる必要はありませんし、大声を上げればだれかが助けてくれます。

次に空港もあまりいいところではありません。搭乗券を持った人しか入れないエリアは比較的安心できますが、到着ロビーやチェックイン・カウンターの周囲は要注意です。置き引き、スリ、白タクの客引きなどがあなたを狙っています。チェックイン手続きをしているときは注意がそっちにいっちゃってるので特に危険です。

歓楽街も危険地域の典型です。これはガイドブックなどに頼らざるを得ませんが、ガイドブックに「この辺りは危険」と書いていないからといって安全だという訳ではもちろんありません。メシを食いにいったりその他いろいろなお楽しみに出かけるときに歓楽街をまったく外すことはできませんが、そういう地域にはそれなりのリスクが伴うということを承知しておくべきです。

他にも貧民街、移民街など、用事のない人は近寄らない方がいい地域があります。あと、一見問題のない地域や観光名所でも一つ裏に入った人気のない路地などは要注意です。これもガイドブックや口コミに頼らざるを得ませんが、大切なのは周囲の雰囲気に気をつけること、この辺はヤバそうだということを感知できる皮膚感覚、嗅覚を鍛えることです。もちろん危険な地域だと分かっていても踏み込まなければならないことはありますが、そこが危険地域だと知って警戒のレベルを上げることでリスクは減らすことができます。

ホテルもまったく安全という訳ではありません。きちんとしたホテルでもロビーや廊下は道路と同じでだれがいるか分かりません。エレベーターも密室なので気を緩めない方が身のためです。ノックがあってもすぐに扉を開けてはいけないのはもちろん、外出の時に部屋の中に貴重品を出しっ放しにしておくのもあってはならないことです。セーフティボックス(金庫)を活用しましょう。

また、同じ場所でも時間帯によって危険度は異なります。深夜の一人歩きはいうまでもなく危険です。日本の感覚で夜遅くにフラフラ出歩くのはやめましょう。

敵の手口を知る

敵を知り己を知れば百戦危うからずといいます。敵の手口を知ることは身を守る上で大きな助けになります。一般にヨーロッパではアメリカのような荒っぽいホールドアップや銃を使った身の危険を伴う犯罪よりは、おもにスリ、置き引き、ひったくり、詐欺、白タクなど金品を狙われるのが中心といわれていますが、最近ではスペイン辺りで上にも書いたような力ずくの首締め強盗なども現れているそうですから油断はできません。あと女性の場合は性犯罪にも気をつけなければなりませんね(いや、男もなんだけどさ)。

新しい手口は外務省のサイトなどで紹介されています。出かける前には必ず確認して行きましょう。ちなみにありがちな手口をいくつか紹介すると、

● 数人で取り囲み羽交い締めにして首を絞め失神させて金品を奪う。これが最近スペインで流行りの首締め強盗。
● 数人のグループが新聞などを見せながら近づいたり道を訊いたり小銭を両替してくれなどと話しかけたりして注意を引き荷物をひったくったり財布をすったりする。服にアイスクリームやケチャップのようなものを引っかけて注意を引くパターンもある。自分でやっといて「何かついてますよ」とかね。子供の場合も多い。
● ニセ警官。「麻薬取引の取り締まりをしている、持ち物を見せなさい」とか何とか。一般に警官が路上で所持品の検査をすることはあり得ません。
● 自分も旅行者のような顔をして近づき、いい店を知っているから一緒に行こうと誘って暴力バーに連れこむ。法外な値段を請求されたり薬で眠らされて金目のものを奪われたりする。ローマ辺りでありそうな話。仲良くなったところで「実は財布をなくして困っている、後で指定の口座にカネを振り込むから当座の資金を貸して欲しい」なんていうのもよくある手口。もちろん後からカネが帰ってくることはあり得ない。日本人による寸借詐欺もあるらしい。
● タクシーで支払をしようとしたらニセ札だと言われ突き返された、日本の銀行で両替してきたのに…。ってそりゃあなた、すり替えられてますよ。
● 挿入されたカードが機械の途中で止まるよう現金自動支払機に細工をし、通行人を装って言葉巧みに暗証番号を押させる。その番号を記憶し、被害者がカードは機械に呑みこまれたと諦めて立ち去ってからカードを回収、現金を引き出す。窓口に相談できないよう週末や銀行の営業時間外にやる。

スキを見せない

上に書いたアピール効果を考える上でも敵にスキを見せないというのは大事なことです。例えば駅のコンコースや観光地の真ん中で地図やガイドブックを広げてたたずむなんていうのは最悪ですね。もちろん観光客なんだから地図やガイドブックを見る必要がある時というのはありますが、その時も壁や何かを背にして周囲をよく見渡してから、手早く必要な情報だけを拾う必要があります。僕は地図は常に小さくたたんで必要な部分を表に出した状態でポケットに入れています。「地球の歩き方」を解体して必要部分だけ持ち歩くなんていう強者もいます。

いかにも貴重品の入ったカバン、ポーチの類を不用意に身につけているのもマズいですね。持ち歩く必要のない貴重品は可能な限りホテルの金庫などに預け、出歩くときは手ぶらが理想です。ウェストポーチはひったくられたりすられたりするリスクは少ないですが、逆に「ここに貴重品が入ってますよ〜」と宣伝しているようなものですから注意が必要です。

カバンを目の届かないところに放置するのは論外ですが、カフェやレストランでも椅子の背に掛けたり足許に置いたりするのは避けるべきです。気がついたときにはないものと思っておいた方がいいでしょう。

話しかけられて安易に立ち止まったり話に聞き入ったりするのも避けたいところです。旅は道連れ、人との出会いを旅行の楽しみにしている人もいると思いますが、街なかで観光客に話しかけてくる人間にあまりまともなヤツはいません。時と場合にもよりますが、危険地域では特に、親しげに近寄ってくるヤツには気をつけた方がいいでしょう。安易に人を信用してはいけません。

買い物をするときに財布を出すことは仕方がありませんが、レジの列に並びながら財布を手に持っているのは危険です。また、支払の時にもカネがぎっしり詰まった財布を周囲に見られるのは避けたいですね。

女性の服装もポイントの一つです。魅力的でない服装をしなさいとは言いませんが、挑発的なもの、露出の多いものは性犯罪を誘発するリスクも高いということを認識した上で着るものを選んで下さい。

リスクを分散する

一つのバスケットにすべてのタマゴを入れてはいけません。旅行に行くときは必ずパスポートのコピーを取っておきましょう。もちろんそのコピーはパスポート本体とは別に保管することが必要です。外出の時に身元証明が必要になりそうならコピーを持ち歩き、本体はホテルの金庫に預けましょう。

クレジット・カードと現金は別にしておくべきです。現金も常に持ち金全部を携行するのではなく、必要な金額だけポケットなり財布なりに入れて残りはやはり金庫に預けるべきでしょう。カードの番号、盗難時の連絡先等は必ずメモに控え、そのメモはもちろんカードとは別に保管します。

移動中も現金は何カ所かに分けて持つ、支払手段をクレジット・カード、トラベラーズ・チェック、国際キャッシュカードなど複数用意する、なども有効ですが、クレジット・カードとキャッシュカードをまとめて盗られたとか、財布とパスケースを入れたポーチを丸ごとなくしたなんてことになると意味がありませんから、保管の仕方はよく考えましょう。一つのカバンに貴重品をまとめて入れ、「貴重品袋」みたいにするのは危険です。

抵抗しない

不幸にして強盗にあったら抵抗しないことです。おカネですむなら有り金全部渡してお引き取り願いましょう。命あっての物種です。

ひったくりに遭ったときも諦めるに越したことはありません。いざひったくられたら素直に手を離すのが身のためです。ひったくり対策としてカバンのひもをたすき掛けにした場合、バイクなどからカバンを引っ張られると身体ごと引きずられて大ケガをするおそれがあります。ひったくられたときに必死の抵抗をしなくてもすむよう、身につけるカバンにはひったくられても諦めのつくものだけを入れましょう。

性犯罪の場合には軽々に言えないものもありますが、貞操と命とどちらが大事かは自分でよく考えて下さい。

想像力を鍛える

さて、いろいろと書いてきましたが、最も大事なのは「ここは日本ではない」と認識することです。世界には自分の知らないことがたくさんある、というか自分の知ってることなんて世界のほんの取るに足りない一部に過ぎないというグローバルな世界認識が欠けていると、そこにはまだまだ自分の知るべきことがたくさんあるということが理解されないし、ひょっとしたら自分がまったく想像もしていなかった別の考え方で成り立つ世界があるかもしれないという想像力が働きません。

多く目にするのは自分の身の回りの当たり前の世界だけが世界の総体だと無批判に信じてしまえる楽天性というか懐疑精神のなさです。独善というのともちょっと違う、あまりに無邪気な「自分信仰」みたいなものが日本の社会全体に横行しているように思える訳ですが、一歩外へ出るとそれは大変危険なことです。海外へ出かけられる皆さん、どうぞ、自分はアジアの片隅から来たよそ者に過ぎない、ここにはここの掟があるのだということを常に意識してください。過剰に心配する必要はありませんが、常に「もしかしたら」と考えること、こんなことがあるかもしれない、あんなヤツがいるかもしれない、と想像してみることで、あなたの防御レベルは確実にアップするのです。

どうぞ、事故のない安全なご旅行をなさって下さい。



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