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◆「人間以前」
◆ハヤカワ文庫SF
◆大森 望・編
◆2014年11月刊行

「アジャストメント」(2011)、「トータル・リコール」(2012)、「変数人間」(2013)、「変種第二号」(2014)、「小さな黒い箱」(2014)に続くハヤカワ文庫からのディック短編集シリーズ全6巻の最終巻。
編者・大森望による巻末の「編者あとがき」によれば、本作は「幻想系の作品と、子どもを主役またはテーマにした作品」を中心に12編を収録。
収録作のうち『不法侵入者』は「SFマガジン」1970年5月号に関口幸男訳で掲載されたのが本邦初訳らしいが、これまで短編集には収められなかったもの。マニア向けの目玉商品だろう。
『地図にない町』(大森望訳)、『フォスター、おまえはもう死んでるぞ』『人間以前』(ともに若島正訳)の3編はこの短編集のための新訳となっている。若島訳の2編はタイトルも改めている。
なお、『ハーラン・エリスン編「危険なヴィジョン」向きの、すべての物語の終わりとなる物語』はこれまで本邦未訳の作品だが、英語で120語という超短編ということもあり、扉など必要なページが確保できないという理由でこの短編集では正式の収録作としてではなく、「編者あとがき」の中で「おまけ」的に全文が訳出されている。本稿では収録作に加えておく。

 

The Commuter 地図にない町 1953 大森望・訳

短編集「地図にない町」に仁賀克雄訳で収められた作品の新訳。 

The King Of The Elves 妖精の王 1953 浅倉久志・訳

短編集「ゴールデン・マン」に収められた作品の再録。 

Upon The Dull Earth この卑しい地上に 1954 浅倉久志・訳

短編集「模造記憶」に収められた作品の再録。 

Cadbury, The Beaver Who Lacked 欠陥ビーバー 1987 浅倉久志・訳

短編集「模造記憶」に収められた作品の再録。 

The Cosmic Poachers 不法侵入者 1953 大森望・訳

地球の管理下にあるシリウス星系に、昆虫に似たアダーラ人の宇宙船が不法侵入し、最も外側の第十惑星に着陸した。彼らはそこから何かを持ち去ったらしいが、何を持ち去ったのか分からない。第九惑星、第八惑星と次々の同様の行動を繰り返すアダーラ船に対し、地球人は第五惑星で彼らを待ち伏せ、積荷を奪う。それは美しく光る宝石のようだったが…。星新一作でもおかしくないような古典的、牧歌的なSFアイデア短編。途中から結末も半ば分かってしまう。「かつてSFとはこういうものだった」的な感じで微笑ましい。 

What The Dead Man Say 宇宙の死者 1964 浅倉久志・訳

短編集「シビュラの目」に収められた作品の再録。 

The Father-Thing 父さんもどき 1954 浅倉久志・訳

短編集「人間狩り」に仁賀克雄訳で収められた『パパそっくり』の改題異訳。本作に収録された浅倉久志訳は短編集「時間飛行士へのささやかな贈物」(タイトルは『父さんに似たもの』)、「ペイチェック」(タイトルは『父さんもどき』)に収められたものの再録。 

Progeny 新世代 1954 浅倉久志・訳

短編集「悪夢機械」に収められた作品の再録。 

Nanny ナニー 1955 浅倉久志・訳

短編集「人間狩り」に仁賀克雄訳で収められた作品の異訳。本作に収録された浅倉久志訳は短編集「ペイチェック」に収められたものの再録。 

Foster, You're Dead フォスター、おまえはもう死んでるぞ 1955 若島正・訳

短編集「パーキー・パットの日々」に友枝康子訳で収められた『フォスター、おまえ、死んでるところだぞ』の改題新訳。 

The Pre-Persons 人間以前 1974 若島正・訳

短編集「まだ人間じゃない」に友枝康子訳で収められた『まだ人間じゃない』の改題新訳。 

The Eye Of The Sibyl シビュラの目 1987 浅倉久志・訳

短編集「シビュラの目」に収められた作品の再録。 

The Story To End All Stories For Harlan Ellison's Anthology Dangerous Visions
 ハーラン・エリスン編『危険なヴィジョン』向きの、すべての物語の終わりとなる物語
 1968 大森望・訳

原文ではわずか120語、邦訳270文字の超短編。というよりは作品のアイデア・メモとかプロットの要約に近い。「数人の女たちの損傷した肉体を継ぎ接ぎしてつくられたひとりの女」が「雌のエイリアン」と性交して懐妊、子供の所有を巡って雌のエイリアンと闘いそれに勝って子供を食べてしまうという荒唐無稽な思いつきだが、案外きちんとした短編になりそうな気もする。最後に神学的な落ちがつくのはディックの手クセのようなものか。まあ、こういう「作品」もあるんだなという感じで読み流しておけばいいだろう。 



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