logo 永久戦争


1993年に新潮文庫から刊行された短編集で、1953年から1956年の短編の中から表題「永久戦争」どおり戦争に関わるものを6編収めたもの。日本オリジナルの編集によるもので、選・訳はいずれも浅倉久志による。うち2編は既に仁賀克雄の異訳が先にあり、この短編集でしか読めない作品は4編のみ。コンセプト・アルバムを目指したと「解説」にあるが、そこまでの統一感は見出しがたいと思う。

 

The Defenders 地球防衛軍 1953 浅倉久志・訳

地上ではロボットによる最終戦争が戦われており、人間は戦闘と放射能を避けて地下深くに暮らしている。だが、ある時、ロボットたちからの報告に疑問を持った人間が地上に出てみると、そこには緑に包まれた地表と、人間たちを欺くための作業を続けるロボットたちの姿があった。彼らは人間同士の戦争から地球を守るため、地上では戦争が続いていると偽りの報告をしていたのだ。「最後から二番目の真実」の原型とも言える作品で、ラストがやや楽観的なのは仕方のないところだが、アイデアは秀逸だ。
 

The Chromium Fence 傍観者 1955 浅倉久志・訳

アメリカは清潔党と自然党に別れて激しい政治的対立の最中にあった。やがて清潔党が推す憲法修正案が可決され、人々は汗腺の除去を強制されることになる。ウォルシュは国中を二分したこの党派闘争に意義を見出せず、どちらにも与しない傍観者的な立場を取ってきた。そして今、清潔党が勝利したことによって、彼は清潔党員でないという理由で迫害されようとしている。彼は清潔党に服従する代わりに、甘んじて迫害を受けることを選ぶのだった。党派闘争の滑稽さを寓意的に示した佳作でアイデアも面白い。
 

War Veteran 歴戦の勇士 1955 浅倉久志・訳

仁賀克雄訳「ウォー・ヴェテラン」(「ウォー・ヴェテラン」収録)と同一作品の異訳。
 

To Serve The Master 奉仕するもの 1956 浅倉久志・訳

郵便配達人のアップルクィストは、仕事の途中でうち捨てられたロボットを見つけた。ほとんど壊れているがそれはまだ機能しているようだ。大戦争の後でロボットは完全に姿を消しており、人間が重労働に従事していた。アップルクィストはその理由を知らない。彼はひそかにロボットのもとを訪れ、その再生を手伝う。だがそれを知った上司は激怒した。先の戦争は自らを人間より偉いと思いこんだロボットたちの反乱であり、ロボットと人間の戦争だったのだ。アシモフの三原則は既に1950年に発表されているのだが。
 

Jon's World ジョンの世界 1954 浅倉久志・訳

仁賀克雄訳「ジョンの世界」(「ウォー・ゲーム」収録)と同一作品の異訳。
 

The Variable Man 変数人間 1953 浅倉久志・訳

地球はケンタウルスとの戦争を準備していた。すべての要因を入力したコンピュータが地球優勢と判断したときが開戦の時。秘密兵器が完成に近づいた今、コンピュータが計算する戦争の形勢は地球優勢に傾きつつあった。だが、あるときコンピュータは答えを出せなくなる。それは手違いで過去から連れてこられたひとりの男のせいだった。天才的に器用でどんな機械でも修理してしまうその男は、コンピュータにとって予測不可能な「変数」なのだ。設定に無理はあるものの活劇としては文句なく面白い。



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