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「ロック解除ふだんから」 東武線踏切事故で容疑者が供述 (朝日新聞 2005年3月17日)

4人が死傷した東武伊勢崎線竹ノ塚駅(東京都足立区)の踏切事故で、業務上過失致死傷容疑で逮捕された同駅踏切保安係の小松完治容疑者(52)が警視庁の調べに対し、「渋滞を緩和するために、ふだんから自分の判断でロックを解除して遮断機を上げていた。ほかの係員もやっていた」と供述していることがわかった。

列車の通過本数が多く「開かずの踏切」になっているのを少しでも解消するためだったという。警視庁はこうした実態を東武鉄道本社の関係部署などが黙認していた可能性もあるとみて調べている。

現場の踏切は03年の国土交通省の調べで、ピーク時には1時間に59分間、遮断機が下がった状態になる都内でも有数の「開かずの踏切」だった。通行人から「遮断機が下りている時間が長すぎる」などという苦情が本社や駅に寄せられることもあった。(後略)


踏切の遮断機が上がれば普通の人は渡り始めるだろう。そこに電車が来れば事故になるのは当たり前だ。何というか、電車が来ているのに手動で遮断機を上げたなんて、いったいどうなってるんだというのが、最初にこの事故のことを知った人の普通の感想だろうと思う。僕も実際そう思った。

それにしても東京の真ん中、足立区にどうして保安係が4人もいる有人の踏切があるんだろう。ていうかそもそもまだこの日本に有人の踏切があったのか…。だが、記事をよく読んでみて何となく事情が分かったような気がした。そう、ここはいわゆる「開かずの踏切」だったのだ。

だいたい1時間に59分も閉まっていれば普通の人は怒るだろう。東武鉄道は「事故当時は、約10分間は遮断機が上がらないはずだった」と言っているらしい。そういう状況では、ベテランの踏切係が少しの時間でも余裕があれば遮断機を上げて人を渡らせたいと思ったとしても無理はないような気がする。

ふだんからロックを解除して遮断機を手動で操作していたのだとしたら、おそらくはそうでもしないととてもじゃないが踏切が踏切として機能しないからであり、だからこそわざわざ有人にしていわば「臨機応変」に対処せざるを得なかったのではないかと考えたくもなる。そうやって毎日ギリギリのハイリスクの仕事をして、一度失敗したらいきなり「容疑者」呼ばわりなのだから、仕事というのはせつないものなのだ。

もちろん僕はだからといってこの事故は仕方がなかったと言うつもりなどない。でも、僕は単純に踏切係のおじさんのミスだけを責める気にもなれない。人のする仕事にミスはつきものであり、事故ゼロは究極の目標であるとしても、統計的に見れば必ず一定の確率でミスは起こる。僕だってあなただってミスをする。問題はミスが起こることではなく、ミスが起こったときにそれが取り返しのつかない事態に直結してしまう仕組みの方にあるのではないだろうか。

さいわい僕の仕事は少しぐらいミスをしたからといって人が死ぬことはまずない。でも、世の中には些細なミスが人命を損なう類の職業が存在する。そのような重い十字架をおじさんひとりに背負わせて、とんでもない、と指さし非難するようなことは僕にはできないのだ。



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