お断り
その後、このホテルの対応に対する批判が相次ぎ、翌日には総支配人が謝罪したが元患者らは態度を硬化させ、結局法務省がホテルを旅館業法違反で刑事告発するおおごとに発展してしまった。あ〜あ…。 僕だってハンセン病について詳しい訳ではないが、ハンセン病はもともと必ずしも感染力の強くない病気であり、しかもこの元患者らは「元」患者、というだけあって既に治癒していて感染のおそれはないのだという。旅館業法は施設に余裕がないなどの特別な理由のない限り旅館業者が一方的に宿泊を拒んではならないと定めており、感染のおそれのないハンセン病の元患者の宿泊の申込を、それを理由に断れば確かに旅館業法違反に問われても仕方ないのだろう。 だが、あなたがこのとき休暇でちょうど同じ温泉に宿泊しようとしていたのだとしたらどうだろう。このホテルにハンセン病の元患者の団体が宿泊していると知った上であなたはこのホテルに、この温泉に敢えて宿泊しますか。 当たり前だ、と答えられるならそれでよろしい。僕もそう答えられるような立派な人になりたいと思う。だが、いくら感染のおそれはないといっても何となく不安だ、せっかくの休暇なのだし、別に不安を感じながら温泉に入らねばならない理由はない、なにしろ自分でカネを払って宿泊するのだ、他のところにしよう、と考える人はいないだろうか。僕はいると思う。そう、「病気が伝染しないことが、必ずしも世間すべてで認識されているとは限らない」のだ。 もちろんそれは偏見だ。間違った考えだ。だが、偏見だろうが何だろうが、宿泊客がそのホテルの予約をキャンセルすることはだれにも止められないし告発することも処罰することもできない。ホテルに宿泊を受け入れるよう強制することはできても、人の内心の偏見を無理矢理正すことはできないのだ。だとすれば結局、法務省が求めているのは、このホテルが、偏見を持った他の客のキャンセルや今後の客の減少をものともせず、経営も省みず身を挺して偏見や差別と闘うことであり、偏見や差別の「コスト」をこのホテルが一手に引き受けることに他ならない。 偏見や差別と闘うのは大切なことだし必要なことだ。このホテルだって例外ではない。しかし、ホテルも客商売だから、実害の有無とは別にイメージのよくない客を断りたいという気持ちはあるだろう。そういう経営判断を曲げてでも差別と闘えというのであれば、差別と闘ったものが不当に不利益を受けないようにきちんとバックアップがあってしかるべきじゃないのかな。経営への打撃を恐れて宿泊を断れば旅館業法違反で刑事告発だというのではまるで国家による脅し、恫喝みたいに思える。 でも今回、結果としてこのホテルは元患者らの宿泊を断ったことでかえって評判を下げ、イメージダウンを招いてしまった訳で。こういう時代の経営リスクの見極めは難しいなあ。 2003 Silverboy & Co. e-Mail address : silverboy@silverboy.com |