logo カネを借りるなら


どこかのホームセンターで買い物する家族連れ。「ねえパパ、犬欲しい」と娘の声。「ボーナスまで待ちなさい」と言いながら振り返る父、しかし…。たいていの人は知っているはずのある消費者金融業者のテレビCMである。このCMのアピールするものは明らかだ。今欲しいものがある、でもカネはボーナスが入るまで自由にならない、その間のファイナンスのお手伝いをしますよ、と。

別の消費者金融業者のテレビCMにこんなものがある。寿司屋のカウンターで若いカップルが寿司を食べている。「好きなものを注文していいよ」という青年の言葉に、アワビだのイクラだの大トロだのを次々と注文する連れの女性。財布の中身が気になって安いネタしか注文できない青年。そこへ登場する加藤茶、曰く「たまにはババンと…」。同じ会社のCMには南の島編というのもあるが、要は財布の中身ばかり気にしてないで、たまにはカネを借りてババンと豪勢にいってみませんか、ってことだ。

どちらも言っていることは似たようなものに見える。もちろんカネを借りて欲しいものを手に入れようという基本的なアピールは同じだ。だが長年消費者金融の世界でメシを食っている前者と、最近になって参入した都銀系の後者では、そのメッセージの巧拙には明らかに差があるのに気がついただろうか。

我々銀行員がカネを貸すときに最も神経質に検証するのが資金使途と返済引当である。貸したカネが何に使われるのか、そしてそのカネはどんな資金で返済されるのか。使い道のいい加減なカネは貸せないし、返済のあてのない融資はできない。当たり前のことだ。

では両者を比べてみよう。まず前者のCM。使い道は犬の購入である。犬は形に残るしいざとなればだれかに売ってカネに代えることもできる。返済引当はボーナスである。父親自身が最初は「ボーナスまで待ちなさい」と言っているのだから、父親のボーナスが入ればこの犬程度の買い物はできるのだろうと想像ができる。このCMはそういう買い物にこそ当社をご利用くださいという明確なメッセージを送っている。

これに対して後者はどうか。使い道は飲食費、または旅行費用である。端的に言って消費性の資金だ。使ってしまったら終わりのカネであり後には何も残らない。返済引当も不明である。今、現にカネを持っていない若者に、借金をしてババンと寿司を食った後で、急に返済資金ができるとは考えにくい。もしかしたらこの若者はたまたま給料日前なのかもしれないし、前者のお父さんと同じくもうすぐボーナスが入るのかもしれない。でもCMではそういう情報は示されない。結果として視聴者は、先のあてはなくても取りあえずカネを借りてババンといきましょうというメッセージを受け取ることになる。返済のことは後で考えましょう、と…。

もちろんこれは単なるCMの比較であり、それぞれの会社が実際にどういうところなのかは僕は知らない。しかし多重債務者が問題になっている時代に、カネの借り方を示唆する消費者金融のCMとして、どちらが洗練されているのかは明らかだ。どんなに教え諭しても見さかいなくカネを借りる人はいつの世の中にもいるだろうが、これからカネの使い方を学ぼうとする人たちに、少なくとも後者のCMは見せたくない。豪勢な寿司を食いたかったらまず働け、と僕は言いたい。



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