logo W杯総括(1)―日本代表


4年前、日本代表が初めて出場したワールドカップを僕はドイツでテレビ観戦していた。当時日本は「サッカーをやる国」としてはほとんど認知されておらず、1次リーグで日本と同じグループになったクロアチアやアルゼンチンからはきっと楽勝だと侮られていただろう。おそらくはジャマイカよりイージーな相手だと思われていたのではないだろうか。そして日本はその通り、3戦全敗、ジャマイカ戦で1得点をあげただけですごすごとフランスを後にするしかなかった。日本国内では1勝1敗1分で決勝トーナメント進出だ、みたいないい加減な楽観論があったかもしれないが、そういう喧噪のない外国で見ていた僕には、それは意外な結果でもなんでもなかった。

しかし今年4月、帰国前にドイツの同僚たちから言われたのは、日本は地元なんだからベスト16くらいは行くだろう、うまくすれば準々決勝か、ということだった。彼らが日本代表の試合をつぶさに研究していた訳ではもちろんないだろうが、この4年の間にサッカー業界における日本のプレゼンスというのは確実に向上したし、誘致した以上それくらいの力はあって当然だろうという見方をされていたのは紛れもない事実だと思う。逆に言えば、ワールドカップを誘致した段階で、開催国として恥ずかしくない試合をしますよと、日本は国際的に公約したみたいなものだったのだ。

結果から言えば、日本代表はその重い約束を見事に果たして見せた。もちろん日本代表はロシアやベルギーより明らかに強かった訳ではない。しかし小学生ばかりの鬼ごっこに一人だけ仕方なく混ぜてもらった幼稚園児みたいだった4年前に比べれば、今回は一人前の「参加者」として認められていたし、本人たちもそういう自覚というか矜持を持っていたような気がする。どちらが勝ってもおかしくないというレベルの「戦い」のサークルにメンバーの一人としてしっかり加えてもらっていた感じがするのだ。

中田や小野、日本に帰って初めてアーセナルでの経験の「意味」を発見したかのような稲本がそこで果たした役割は大きかったに違いない。実際、試合後に相手と健闘をたたえ合う仕草は中田と小野が一番堂に入っていたように思う。それは日本が世界の強国と、レベルの差はあっても同じ言葉、同じ文法でサッカーという会話ができる国になったのだということを強く印象づけた。しかし僕が驚いたのは、戸田、鈴木、宮本といった海外経験のない若い選手が実に堂々と戦っていたことだ。日本代表は成長した。そしてそれに見合う結果を手にした。このことはきちんと記憶にとどめておくべきだ。

しかし、決勝トーナメントのトルコ戦はもったいない試合だった。もちろんトルコはタフな相手だ。簡単に勝てた試合ではない。だが勝てない試合ではなかったし、そうである以上勝つべきであった。僕は日本代表が決勝トーナメントに進出して満足し手を抜いていたとかモチベーションが下がっていたとか言っているのではない。ただ、ギリギリの力を出した後のラスト・モメントで決定的なリスクを取る精神力が淡泊に流れていたように思った。それはワールドカップの決勝トーナメントという未知の領域に踏み込んだとき、そこでどんな戦いをするかというイメージが、やる側にも、見る側にも、指揮する側にもなかったということなのではないか。

試合に勝つか負けるかは、時の運も含めていろいろな要素の上に成り立つ一種の水物だから、今さら何を言っても詮無いことだし結果論に過ぎないのは承知の上で書いているのだが、何が起こってもオレたちが勝つのだという強い確信がトルコ戦での日本代表にはなかった。少なくとも僕にはそう思えたし、僕自身にもそういう確信はなかった。あなたにもなかっただろう。だから日本が負けたとき、よくやったという報道はあってもなぜ負けたという辛辣な論調はほとんど見かけなかったように思う。

だが僕たちは本当はもっと悔しがるべきだったのだ。もっと地団駄踏んで悔しがり、怒り、意味もなく選手や監督を罵倒し、そして日本代表に何が足りなかったのかをもっと真摯に総括し反省すべきだったのだ。なぜならそれは勝てる試合だったのだから。反省し、改善につなげることのできる試合だったのだから。いかなる意味でも敗戦に満足してはならない。僕たちはもっと貪欲であってよいのだ。日本代表は今や僕たちが勝手に貪欲になるに値するだけの力を持ち、それを1次リーグで世界に示したのである。トルコに負けたことは明らかな結果なのだから仕方ないし今さら変えられない。だがそれをあまりにも淡泊に、寛容に受け入れてしまうことは、日本代表は次のワールドカップでも決勝トーナメントに進出すれば御の字だと考えているということであり、そういう考え方の国はおそらく次のワールドカップには出場もできないんじゃないかと僕は思うのだ。

決勝トーナメント進出という最終的な結果は十分満足できるものだ。しかし物語はこれで終わった訳ではなく、むしろこれは長い歴史の始まりに他ならない。そういう視点に立てば、僕たちはまだまだ多くの問題を抱えているし、やるべきことはたくさんある。今回の日本代表の戦いはそんなふうに総括されるべきものではないだろうか。



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