だれのせいでもない
A: 「ドイツのニュースはマケドニアでもちきりなんだ」
B: 「何だい、マケドニアって」
A: 「旧ユーゴスラビアの国のひとつだよ。何だかよく知らないけど民族対立があってごちゃごちゃやってるんだ」
B: 「へえ、あの辺りって何だかそんなのばっかだよね」
A: 「そう、もともとバルカン半島はヨーロッパの火薬庫だといわれるほど昔から紛争の絶えない地域だからね。民族や宗教や言語が複雑に入り組んでるし、歴史的な背景もあって」
B: 「ヨーロッパだと他にも北アイルランドとか」
A: 「あれも根が深いよね。いったんはイギリス政府とIRAとの間で停戦が成立したんだけどね」
B: 「てことはテロを続けてるIRAが悪いってことなのかな」
A: 「いや、一概にそうも言えないんだよね。もちろんテロは許せないという一般論を持ち出すのは易しいことだけど、その背景にある宗教対立とか、カトリック系の住民が置かれてきた情況とか、イギリス政府のこれまでの対応とか、そういうことを総合的に考えなきゃ理解できないんだと思うし、どっちが悪いという問題じゃないんだよ」
B: 「だれも悪くないってこと?」
A: 「ていうか、みんながそれぞれに少しずつ正しくて少しずつ悪いということなんだろうな。それぞれに立場とか利害とか言い分とかがあって、それはそれぞれの視点からは正しいし無理からぬところもあるけど、相手の目からはとんでもない言いがかりに映ったりする訳だよ」
B: 「じゃ、第三者から見ると?」
A: 「ま、どっちもどっち」
B: 「なるほど。」
A: 「中東だってそうだよな。イスラエルとパレスチナとどっちが正しいかと言われても困ってしまう」
B: 「でも、そうするとこの世の中には『悪いヤツ』なんていないってこと?」
A: 「端的に言ってしまえばね。もちろんどう見ても正当化しにくい紛争もない訳じゃない。でも、それにしたってやはりそれなりの主張や事情はあるはずなんだ。どちらかといえばこっちの言ってることの方がもっとものようだ、というくらいのことしか言えない、それが国際政治というものだろう。そこで白黒つけようという考え方の方が危険だし、白黒つけることができる、つまり善悪で割り切ることができると考えるのは思想的に怠慢だよ」
B: 「比較の問題に過ぎないってことかな」
A: 「その通りだ。だれかが一方的に悪い国際紛争なんてない。だれかを悪者に仕立ててすべてをそのせいにしたりしても何も解決しない。そこには必ず歴史の必然があるはずだし、それを善悪で判断するべきじゃない。国際政治はもっとリアルでダイナミックなもののはずだ」
B: 「第二次世界大戦はどう考えればいいのかな」
A: 「僕はあれも例外じゃないと思う。もちろん日本は戦争に負けた。今考えれば無謀な戦争だったし、その過程でほめられないようなこともいろいろやっただろうと思う。でも、日本だけが一方的に悪かったということはあり得ない。欧米の列強がアジアに進出して植民地分割を進める中で、ほとんど唯一独立を守った日本が次第に列強から包囲されて締め上げられ、打って出るしか道がなかったという言い方だって十分できる。だれが悪かったかなんて見方の問題に過ぎないし、そこには何の意味もないんだよ」
B: 「でも、みんなはそう思ってないみたいだよ」
A: 「だって、戦争に勝った国が負けた国に対して『戦争には負けたけど君の国のやったこともあながち悪いことばかりじゃなかった。無理のなかった面もあるよ。うんうん』なんて言ってくれる訳がないだろ。僕たちはそういう戦勝国の視点から太平洋戦争を教えられてきたからね」
B: 「そういうことを言うとあれだよ。ヒステリックになっちゃう人が出るよ」
A: 「かもね。でも、僕にはどうも日本だけが悪者で他はみんな被害者か正義の味方だという単純な割り切りが気持ち悪くて仕方ない。僕はそれが言いたいだけなんだ。そういう強引な割り切りをしようとするから逆に『新しい歴史教科書』みたいなものも出てくるんじゃないかな。明らかなのは日本が戦争に負けたということだけなのに。それはことの善悪とは別の問題のはず…」
B: 「分かった、分かった。それ以上言うとサイトの運営に問題が出るかもしれないから。ともかく、国際紛争は善悪で割り切っちゃダメだということだね」
A: 「…ま、そうかな…」
B: 「マケドニアも、北アイルランドも、中東も、それぞれに複雑な利害や主張の絡み合った難しい問題だということだね」
A: 「…ま、それはそうだけどね…」
B: 「OK、今日の結論はそういうことだ。それじゃ皆さん、さようなら」
A: 「………」
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