logo 無菌時代


すまん、また雪印ネタだ。

いやあ、それにしても出るねえ、あとからあとから。トカゲだのハエだのネジだの容器の破片だの、世の中の食品にこれだけ異物が混入してるもんだとは思わなかった。もちろん、ここ数週間で食品メーカーの衛生管理が一斉に甘くなり、一気に異物混入が増えた、なんてことは考えられないから(その逆ならあり得ると思うけど)、結局今までもそういうことはあったけど表面化していなかった、あるいは今までは消費者も「ゲッ」と思って捨てて終わりだったのが、最近の騒ぎのおかげで「意識が高まった」からなんだろう、きっと。

消費者の意識が高まるのはよいことです。その結果、食品メーカーが衛生管理に注意を払わざるを得なくなるのもよいことです。いや、もちろんそれはその通り。ポテトチップスにトカゲが入ってたらそりゃ言ってやった方がメーカーのためにもなるだろう。消費者の厳しい目があってこそ公正な競争も促されるんだからさ。

ところで、僕の住んでるドイツでは、パン屋や肉屋のショーケースには平気でハエがたかっている。生鮮食料品売場の野菜は大々的に傷んでるから、よく見て買わねばならない。タマゴは生で食べると危ないと言われているし、食肉の賞味期限は販売当日が当たり前だ。まあ、ドイツ人は身体もデカいから、少々危なっかしいものを食べても死ぬこともないんだろう。ドイツといえばもちろん清潔な先進国だが、それでも衛生観念なんてそんなもんだ。

袋に詰められ、いかにも清潔然として店頭に並んでいる工業製品としての食品からトカゲだのハエだのが出てきたらたまったもんじゃないというのは確かにその通りだろう。だけど、それって、普通は「ゲッ」と言ってゴミ箱に捨てればそれですむ話なんじゃないだろうか。あるいはメーカーに苦情を言って代替品を送ってもらうのもいいかもしれない。でも、同じ工場で作られた全製品を回収するほどの大問題だろうか。新聞でいちいち大騒ぎするような大事件だろうか。

問題は僕たちがあまりにナイーブに衛生という大事なテーマを製造者任せにしていること。メーカーの衛生管理なんて所詮いい加減なんだから、食べ物を選ぶときは自分の目でよく確かめて、自分の責任で買いなさいってことでしょ。大丈夫だと思って買ってきたものが実は腐ってた、怪しいものを食べたら当たって苦しい思いをした、そういうのって、まあ、限度の問題はあるにせよ、経験の中で学び、少しずつ賢くなってゆく類の話のはず。そうやってものを見る目を養い、少々怪しいものを食べても死なずにすむ抵抗力を身につけるのが人間の知恵なんじゃないのかな。

代償のない便利さはない。自分の身を守るのは所詮自分だ。メーカーの責任を問うて製品を回収させるのもいいが、「清潔さ」を保つ責任を製造者にだけ押しつけて、自分たちは安全で清潔なものをオートマチックに手にできる、手にする権利があると何の根拠もなくナイーブに信じているだけでは安全も健康も守れない。僕たちの生きている社会はもともと雑菌だらけの不潔な場所なんだから、そこで生きてゆくために必要なタフさについて考えた方が話が早いと思うんだけど。



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