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1週間ほど前にこんなニュースが流れた。「ネット犯罪大幅増、既に昨年の8割に」。つまり「ネット犯罪」の件数が今年前半だけで去年の8割に達してしまった、このままでは大幅な記録更新になるに違いない、というニュースだ。僕はこれを読んで、「ふむふむ、ついに日本でもクラッキングやスパムやウィルスがメジャーな犯罪になったのか」と感慨を新たにしたものだ。インターネット・バンキングのセキュリティを破って他人の口座から自分宛にカネを振り込ませたとか。

ところが、続きを読んで僕はガックリきた。「内訳で最も多いのは猥褻物頒布の64件、次いで児童ポルノ法違反の50件、詐欺も大幅増で25件…」。ちょっと待て、それのどこが「ネット犯罪」やねん、と突っこんだのは僕だけではなかっただろう。確かに猥褻画像をメールに添付して送ればネットを使った猥褻物頒布には違いなかろう。掲示板で児童売春をあっせんすればネットを使った児童ポルノ法違反かもしれない。オークションの落札者からカネだけ振り込ませて商品を送らなければネットを使った詐欺だ。だけど、それって既存の犯罪の道具としてネットが使われただけなんじゃないの?

確かに、ネットの匿名性、即時性、双方向性などの特質が、こうした犯罪を容易にしたり犯罪の質を変化させつつあるということ自体は事実だろう。だけど、例えばひき逃げと、クルマを使った誘拐と、クルマの中で行われた強姦をひっくるめて「自動車犯罪」なんて呼ぶヤツがいったいいるだろうか。花瓶で頭を殴った殺人と、花瓶にシャブを隠していた覚醒剤取締法違反と、安物の花瓶を高く売りつけた詐欺とをまとめて「花瓶犯罪」なんて呼ぶヤツがいるだろうか。どうして「ネット」だけがこんなふうに特別扱いなの?

なにしろこれは警察庁の発表なのだ。警察庁がわざわざネット関連犯罪として、ポルノと詐欺をひとまとめにしているのだ。いったい他にどんなものが混じっているのか見てみたい気もするが、ともかく、こんな、ネットがなくても普通に成立し得る犯罪の「連絡手段」にネットが使われたからというだけで「ネット犯罪」と十把一絡げにしてしまうメンタリティはいったいどこから来るのか。

思うにこれは「ネット」に疎外されているおじさんたちのルサンチマンの表れなんじゃないのか。得体の知れないもの=ネットが小道具に使われた犯罪は彼らには全部「ネット犯罪」。たとえそれが単純なエロ本の販売でも、ネットで注文を受ければ「ネット犯罪」。そこにはネットというブラックボックスに対する「畏れ」のようなものが感じられる。

結局IT革命だなんだと騒いでみても、日本の因襲的で保守的な「大人の」社会ではネットに対する認識なんてそんなもんだということなんだろう。そこでは所詮ネットなんて社会の新参者であり異物に過ぎない。訳の分からないものをひとまとめにして排除しようとするその姿勢からは、新しいものを受容し、そこから始まる(あるいはそこからしか始まり得ない)コミュニケーションの次の局面を見届けようとする気概はみじんも感じられないという他ない。「ネット犯罪」なんてカテゴライズが堂々とまかり通っているうちは、日本のIT事情もその程度のものだということは認識しておいた方がいいかも。



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