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わざわざコラムで力説するほどのこともないテーマだとは思うが、この文章は旅行記からもリファーされていてリンク切れになっていたのでこの機会に復刻することにした。でもまあここに書いていることがレゴで育ってきた僕の率直な考えであることに間違いはない。(2001.6.10)


レゴを買った。レゴを知らない人は少なかろうかと思うが、一応説明しておくと、レゴとはプラスチックの小さなブロックで、主に直方体で汎用的なパーツを組み合わせ、組み立てることで思い思いのものを作って遊ぶ玩具である。手許の資料によれば1950年頃にデンマークで売り出されたものらしいが、今では世界中の子供たちに愛用されており、もちろん日本でも相当ポピュラーな存在であると思う。デパートでも街のおもちゃ屋さんでも普通に売っているはずだ。

僕は小学生の頃、レゴが大好きだった。僕の人格はレゴとプラレールとミニカーと積み木で形成されたと言っても過言ではないかもしれない。6畳の部屋いっぱいにプラレールでジオラマを組んだり、レゴで建物を作ったり、積み木でミニカーの立体駐車場を建築したりして遊ぶのが僕は好きだった。だからレゴにはひとかたならぬ思い入れがあるし、いつか自分に子供ができたら、必ずレゴとプラレールを買い与えよう、それで自分の好きなものを作り上げる楽しさを教えようと考えていたのだった。

しかし実際自分に子供ができ、おもちゃ売場を注意して見るようになって異変に気がついた。レゴが変わっているのである。もちろん小さな「ポッチ」で一つ一つのブロックをつなぎ合わせるという基本的なコンセプトは変わっていない。しかし、「レゴ・システム」、「レゴ・テクニック」などと名付けられたそれは、かつてのような大小さまざまな大きさの直方体の集積ではなく、人形や宇宙基地、特殊車両や西部劇など、一定のテーマに沿ったセットに必要な特殊部品で構成される組立玩具に変貌していたのだった。

もちろん僕が子供の頃にもロケット基地とかガソリン・スタンドとかのセットはあったし、そこにはそうしたものを組み立てるのにどうしても必要な変形部品が含まれていることもあった。しかしそれでもセットの構成部品の大半は汎用性のあるただの四角いブロックであり、最初に添付された図面に従ってセットの本体を構築した後は、その部品を使っていかに他のものを組み立てるかにすぐに興味が移っていったしまたそれが可能だった。

しかし、最近の「レゴ・システム」、「レゴ・テクニック」は、初めから人間の形をした部品や、他にどう考えても転用の余地のなさそうな特殊な形の部品などでそのほとんどが構成されているようにしか見えない。これでは設計図通り組み上げることはできても、それに飽きた後、部品の汎用性を利用して自分の好きなものを組み立てて行く楽しみは大きく制限されざるを得ないのではないだろうか。

僕はこのイースター休暇にイギリス・ウィンザーにあるレゴランドに行ってきた。そこにある数々のアトラクションの中で最も僕の印象に残ったのは、無数のレゴを使って屋外に組み立てられた、ヨーロッパ各国の風景だった。ロンドンのビッグ・ベンやトラファルガー広場、レゴの故郷デンマークの村、ドイツのローテンブルグ、パリのサクレ・クール寺院、その他広大な敷地に配置された膨大な数のレゴ作品たち。それはかつてオランダのデン・ハーグにあるミニチュア・パークであるマドローダムに行ったときより、それがレゴで作られている分だけ圧倒的であり、感動的ですらあった。そこには、レゴという玩具のあるべき姿、行き着くべきところがあまりに明快に示されているような気がしたからだ。

そのあるべき姿、行き着くべきところというのは、汎用部品を組み合わせるだけで、アイデアと根気次第ではこれだけのものができるのだという創意に他ならない。それをこれほど見事に体現するテーマ・パークを作っておきながら、商品はどんどん特殊化して創意の発揮できる余地がなくなっているのだとしたら、それは大きな矛盾以外の何者でもない。

今回僕が自分の子供に初めてのレゴとして買い与えたのは「デュプロ」という年少児用の大ぶりなシリーズだったが、そこにすら初めから馬の形をしたブロックや、クルマの形をしたブロックが含まれている。それなら人形なりミニカーなりを買えばすむ話ではないのか。それがレゴである必要はどこにあるのか。今、「レゴ・システム」の1シリーズとして「フリー・スタイル」という汎用部品の詰め合わせセットがある。しかしレゴはもともと「フリー・スタイル」のはずではなかったのか。それをわざわざ名乗らねばならないところに、それ以外のシリーズの「不自由さ」が端的に表れていると言ってもいいだろう。企業として売る必要も生き残る必要もあるのだろうが、僕はレゴが単純な組立ブロックであり続けることの重要性を力説しておきたい。



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